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HR INTERVIEW

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PROLOGUE

いま義足の世界が変わろうとしています。従来の義足は、いわば人間の“骨と関節”の機能を担う受動式。動力はないため、動くときに他の部位に大きな負担がかかったり、膝折れという現象を引き起こして転倒しやすいという不安点がありました。そこに“筋肉と神経”の機能をつけて人間の自然な動作をアシストできるようにしたのが、BionicM株式会社が開発したパワード義足です。代表取締役社長の孫小軍氏は、どうやって経営チームをつくっていったのか。途中からジョインした取締役COOの関口哲平氏や、社外取締役を務めるUTECの井出啓介氏、HRチームの沖大典氏も交えて語ってもらいました。

TALK MEMBER

  • BionicM株式会社
    代表取締役社長

    孫 小軍

    Sun Xiaojun

  • BionicM株式会社
    取締役COO

    関口 哲平

    Teppei Sekiguchi

  • UTECパートナー
    BionicM社外取締役

    井出 啓介

    Keisuke Ide

  • UTEC HR
    シニアマネージャー

    沖 大典

    Hirofumi Oki

SECTION 1

自身が義足ユーザーで、その使いづらさを感じていたという孫氏。起業までの経緯とUTECとの出会いについて語ってもらいました。

- なぜパワード義足の開発を?

私は中国出身で、9歳の時に病気で右足を切断しました。義足を使うようになったのは日本に交換留学生でやってきてから。松葉杖と違って両手が自由になって活動レベルが上がり、ありがたかったですね。ただ、生活していくうちに課題もたくさん見つかった。そこで当時勤めていたソニーを辞めて、パワード義足の研究開発を始めました。

動力のついたパワード義足は当時世界で一種だけ、主に負傷軍人用に開発されていました。しかし、常にフル駆動する方式なので、安全に使うためにはユーザーに体力が必要で練習して義足を使いこなせるようにならなくてはいけません。私たちが開発しているのは、センシングの技術を活用して必要なぶんだけ義足が駆動するタイプ。ユーザーが義足に合わせるのではなく、義足がユーザーに合わせてくれます。

- 孫さんとUTECとの出会いは?

私は2015年10月から東大で博士課程に入りました。研究資金獲得のために国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「大学発新産業創出プログラム(START)」に申請したかったのですが、このプログラムは研究者だけでなくVCとペアになってアプライする必要があります。申請したいと手を挙げたところ、井出さんが目に留めてくれた。それがきっかけです。

井出

最初にプロポーザルを見たときは、ヒューマノイド技術と人間工学を融合させた面白い技術だと思いました。ただ、STARTは3年間のプログラム。一緒にやるなら私たちもそれなりの時間を使うことになるため、UTEC内の会議に掛ける必要があります。投資委員会に準ずるような会議です。

そこで事業性の観点から調べたところ、世界の義足市場は年間1000~2000億円規模だが欧米3社の寡占で競争が生まれにくく、価格は高止まりしていて、しかもアジアには有力メーカーが1社もありませんでした。また欧米では義足は医療機器ですが、アジア市場の中心である日本と中国で福祉用具という扱いで、レギュレーションの面からもベンチャーが参入しやすい。事業性は高いと判断できたので、起業の3年前からご支援させていただくことになりました。

SECTION 2

計3人のエンジニアとデザイナーで開発を始めた孫さんですが、事業化するにはビジネスサイドの経営人材が欠かせません。UTECがマッチングしたのは、現COOの関口さんでした。

- 関口さんとの出会いを教えてください。

私は3年間の社会人経験がありますが、エンジニアだったのでビジネスの経験はほとんどありません。開発がうまくいったとしても、ビジネスができる人がいないと商品化できない。井出さんからも「経営は一人だけで成り立たない。チームをつくることが大切だ」とアドバイスをいただいていたので、相応しい人を探していました。

井出

出会いのきっかけは、研究者と一緒に事業をしたい人をマッチングする「UTEC Venture Partner Program」(UVPP)というプログラムでした。参加した(起業前を含む)ベンチャーは5社で、1社につき4人、計20人が参加して、関口さんはその中の一人でした。

関口

当時、私はP&Gに勤務していました。いい会社でしたが、生活用品は成熟市場であり、ビジネスという観点では物足りなさもあった。そう感じていたときにUVPPの告知をfacebookで見つけて参加しました。

最初に研究者のみなさんのプレゼンを見て、私は孫さんのチームを第一希望にしました。理由は二つあります。一つは、孫さんが自分の人生を懸けてコミットしているように見えたこと。もう一つは、取り組む課題の大きさです。当時私が扱っていた商品は、自社が売らなくても誰かが売ります。一方、歩くという人間の根源的な活動に困っている人が世界には数多くいて、孫さんのパワード義足ならその方々の生活を支えることができる。これは自分も人生を懸けて取り組む価値のある事業だなと思って、第一希望にしたのです。しかし、私が農学系学部を出ていたからなのか、アサインされたのは孫さんのチームではなく、アグリテック系のスタートアップだった(笑)。

そうでした。ただ、井出さんから「関口さんは、孫さんのチームが第一希望だった」とこっそり教えてもらっていたので、プログラムの最後に名刺交換させていただいたんですよね。それから定期的に連絡を取り合うようになりました。

- 関口さんの参画はスムーズにいきましたか。

私は2018年8月に博士課程修了して、10月に起業予定でした。それまで関口さんからレポートをいただいたり、一緒にホームページを更新したりして、お互いに一緒にやりたいという雰囲気になっていきました。

井出

UTECは関口さんの参画をシードラウンドの投資の前提にしていたくらいで、ぜひ獲得してほしかった。ただ、大手外資からベンチャーに転職するのは人生の大きな決断です。孫さんには「関口さんの人生に責任を負うことになる。その覚悟がありますか」ともお伝えしていました。

関口

私個人は何も問題ありませんでした。しかし、生まれたばかりの子どももいて、妻は不安がっていましたね。投資家を口説くつもりでパワポを作成して、妻にプレゼンした記憶があります(笑)

正式に参画したのは、2019年4月から。最初は経営管理部長で入って、ビジネスの執行をしました。ただ、創業当初のベンチャーはセクションなどないも同然。文房具を買ってきたりオフィスに電話を引くといった雑務も含めて何でもやりました。

あらゆる面で助かりましたが、とくに大きかったのは人のマネジメントの部分です。当時、私は1on1ミーティングの存在ややり方も知らないレベルでしたから。関口さんがきてチームを動かしていく仕組みをつくってくれなければ、会社として成り立たなかったのではないでしょうか。

SECTION 3

シードラウンドを経て事業化を加速させたBionicM。UTECからさらなる支援を得て、いま飛躍のときを迎えようとしています。

SECTION 3

シードラウンドを経て事業化を加速させたBionicM。UTECからさらなる支援を得て、いま飛躍のときを迎えようとしています。

- UTECのHRチームは、どのようなサポートをしましたか?

ベンチャーの創業当初は、全員で薄く広くさまざまな業務をこなしていきます。しかし、本来はそれぞれ自分の領域に集中してもらったほうがいい。そこでまずは一緒にマイルストーンごとの理想の組織図を書き、足りなくなるところを明らかにしました。優先順位をつけて、採用のお手伝いをしました。

関口

全体の戦略だけでなく、「募集要項がこういう表現ではエージェントに伝わりにくい」など細かい実務のところまでアドバイスをいただけて助かりました。おかげで現在、さまざまなバックグラウンドを持つ18人の組織になりました。

井出

経営人材でいえば、独立社外取締役としてpopIn株式会社CEOの程涛さんに加わっていただいたことは大きかったかもしれません。VCと起業家は二人三脚で事業推進しますが、意見が割れることも当然ある。そういう時により客観的なアドバイスをしてくださる株主や創業者ではない独立社外取締役を入れたかった。そこで、UTECのかつての投資先のCEOであり信頼できる程さんに、三顧の礼で入っていただいた。

独立社外取締役が必要という話を聞き、私もまず思い浮かべたのが程さんの顔でした。社外取締役をお願いできる経営者のネットワークを持っているところもUTECさんの強みですよね。程さんには毎月の取締役会だけでなく、一緒によく焼き肉を食べに行って、そこでもマーケティングについてのインプットをいただいています。

- 今後の展開は?

開発したパワード義足を、今年ようやく市場投入できます。それを普及させて2~3年くらいのタイミングでIPOして、投資家の方々に対しても責任を果たしたいと考えています。さらにその先には、私たちのミッション「Powering Mobility For All」の実現があります。いま作っているのは障碍者のための義足ですが、さらに技術拡張して、すべての人のモビリティーを高めたいと考えています。

井出

私たちは、まさにそのミッションに共感して投資を行いました。VCとして直接的なご支援ができるのはIPOまでですが、上場後も長期的にミッションを達成していっていただけるよう、今後もご支援していきます。もちろん資金面だけではありません。上場で問われるのは、事業と組織の両方です。上場で会社がパブリックな存在になるにはしっかりした組織づくりが欠かせないので、我々のHRチームと協力しながら引き続き支えていくつもりです。