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05 STORY MUJIN

MUJINが目指す完全自動化の世界。

MUJIN CEO 兼 共同創業者 Issei Takino

PROLOGUE

いまや産業用ロボットを導入している工場や倉庫は珍しくありません。しかし、ロボットが導入されている工場や倉庫の業務はごく一部。たとえば物流倉庫の約8割の作業を占めるハンドリングは、ほぼマンパワー頼りです。これまでの産業用ロボットは作業をティーチングする必要があり、なおかつ教えた作業を繰り返すだけなので、人を代替できなかったのです。この問題を解決したのが、産業用ロボットを知能化するソリューションを提供する株式会社MUJINです。同社は2019年11月に、ファーストリテイリングとパートナーシップを締結して、倉庫完全自動化の推進に取り組むことを発表したばかり。今後の躍進が期待されますが、創業直後のシード段階で投資をしたのがUTECでした。CEO兼共同創業者の滝野一征氏に、ベンチャーキャピタルとの理想的な関係について話をうかがいました。

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SECTION01 : 重労働から解放する

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SECTION01

重労働から解放する

産業用ロボットといって多くの人が思い浮かべるのは、作業をするアームの部分です。しかし、アームを動かすにはコントローラ、つまりロボットの“脳”が必要です。MUJINはロボットのコントローラを知能化して、さらに3次元ビジョンベースの“目”をつけて、ロボットが自分で見て判断し、動けるようにできるソリューションを開発しました。これにより、工場や倉庫はどのように変わるのでしょうか。

滝野:
いま日本は人口が減っています。だからといって生産性を落とすわけにはいきません。では、人数の減少分をどうやって補い、さらにはもっと儲けられるようにするのか。その解の一つが、産業用ロボットです。産業用ロボットは正確で速く動けて、疲れ知らずで24時間働いてくれる。おまけに「給料を上げろ」と文句も言わない、理想の働き手です(笑)

ただ、現実には1工場1台レベルにも普及していません。なぜなら、導入するにはティーチング、つまりプログラムする必要があり、それが簡単ではないからです。また、ティーチングしても、できるのは決まった動作だけです。決まった工程に少しでもイレギュラーなことが起きると、もう対応できません。例えばバラバラに入ってきたものを取り出したり、積みつけたりするハンドリングという作業も、ロボットには難しく、人しかできない状況でした。

そのまま人にやってもらえばいい?それは難しいですね。いま倉庫や工場は、人の採用に困っています。できれば地価が安い郊外に設備をつくりたいのですが、遠方だと人がきてくれないため、採用費がどんどん膨らんでいます。また、倉庫では、ピッキングなどで1日20キロ歩く人もいます。働く人も、本当は付加価値の低い作業から解放されて、もっと付加価値の高い作業に挑戦したいはずです。

MUJINはモーションプラニングという技術でロボットを知能化して、工場や倉庫内の工程の自動化を実現します。具体的には、ロボットが3次元ビジョンベースの目で見て、いちいち人にティーチングされることなく自分で考えて動きます。すでに中国Eコマース大手のJD.comの倉庫などに導入されるなど、普及は順調。現在500台以上のロボットが、MUJINコントローラで動いています。

SECTION02 : 重厚長大なテックベンチャーに最適なパートナー

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SECTION02

重厚長大なテックベンチャーに
最適なパートナー

いまや多くの製造・流通企業から注目を集めているMUJINですが、東大のポスドクだった出杏光魯仙(デアンコウ・ロセン)氏(現CTO)と滝野氏が二人で共同創業した2011年は資金集めに苦労をしたといいます。

滝野:
当初はロセンも私も二足のわらじだったので、別の仕事で生活費を稼ぎながらの起業でした。もちろんそれだけでは研究開発資金を賄えません。ただ、創業した2011年はリーマンショックの2、3年後で、多くのVCが吹っ飛んだ後。話をしに行きたくても、行き先があまりありませんでした。そんなときにロセンがUTECの存在を聞きつけてきて、プレゼンしにいったのが最初の出会いでした。

じつは当時、他にも2、3社、投資を検討してくれているVCがありました。でも、UTECは他に比べて圧倒的にスピード感があった。他が「検討するから、あと1か月欲しい」というところを、デューデリも含めて短期間で決めてしまいましたから。べつに一刻も早く資金が欲しかったわけではありません。でも、スピード感が合わないと、一緒にやっていけないじゃないですか。

UTECは2012年8月、シリーズAで7500万円の投資をしてくれました。担当の山本哲也さんの第一印象は、「オタク」。媚びることがないので、コミュニケーション重視の営業マンは務まらないひとだなと(笑)。でも、MUJINは重厚長大なテックカンパニーで、ゲーム会社みたいにキラキラしたイメージとは程遠い会社です。山本さんのように地に足がついていて、すごく勉強熱心な方のほうが合っていました。

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PROBLEM

カーネギーメロン大学ロボティクス研究所で博士号を取得した技術者のロセン氏と、世界的金属加工具メーカーのイスカル社で技術営業として数々の賞を受賞した滝野氏。強力タッグに唯一足りなかったものは、法務・経理など企業運用に関わる知識。専用の人材を雇うかどうか悩んだとき、UTECのサポートが役に立ったそうです。

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滝野:
テックカンパニーで初期に必要になるのは、やはり技術系の人材です。その後、製品ができたら、次にビジネス系の人材が必要になる。もちろんそれまでのプロセスでも、法務や経理といった管理系の仕事は発生します。ただ、そのために人を雇っても、仕事が少なく、結果として遊ばせることになってしまう。誰か必要だけど、1人雇うほどには必要ない。ベンチャーにありがちなジレンマに、私たちも陥っていました。

そこで助かったのは、山本さんのサポートです。たとえば法務面で、「この契約は、こういうところがリスクですよ」「この技術は、きちんとパテント押さえてありますか」「商標の問題はないですか」と、私たちが気づかないところを指摘して、実際に手も動かしてくれました。
経理や監査対応でも助けられましたね。普段は作業が少ないから自分でできても、決算などになると、どうしても手が回らなくなります。これも初期ですが、どうしても人が足りないので、山本さんに相談したら、UTECのメンバーを連れて作業を手伝ってくださいました。

あれをしろ、これをしろと口で言うだけのVCも正直多いと思います。でも、UTECは口を出すだけじゃなく、手も出してくれる。ここまでハンズオンでやってくださるVCは少ないんじゃないでしょうか。

SECTION03 : 「ときには喧嘩もしましたよ」

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SECTION03

「ときには喧嘩もしましたよ」

滝野:
業界の中で、UTECは創業者に対してきちんとモノを言うVCとして知られています。投資先の多くは技術系の人が創業した会社なので、たしかにビジネスサイドの助言は必要です。ただ、弊社の創業者は二人いて、一人がビジネス系である私。考え方が違うところについては、遠慮なく喧嘩させてもらいました。

たとえば人員の採用がそうでしたね。UTECとしては、私たちにできるだけ従業員を早く採用してもらい、MUJINを成長軌道に乗せたかった。一方、私たちは誰にも知られていないようなころから採用基準を高く設定していて、採用を早めるためにその水準を落とすことは避けたかった。そこはしっかりとお伝えして、最後はUTEC側にも理解していただきました。
細かい意見の相違をあげたら、もうキリがないくらいです。私はロセンともしょっちゅう喧嘩してますから日常茶飯事ですが、UTECは面食らったかもしれませんね。でも、本音でやりあったからこそ、対等というか、VCと投資先の理想的な関係をつくれたと思っています。

FINAL SECTION : 異例のイグジットから、エコシステムの構築へ

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

異例のイグジットから、
エコシステムの構築へ

MUJIN創業者の2人は、2019年2月、MBO(マネジメントバイアウト)を実施してUTEC保有の全株式を取得しました。日本のVCのイグジットはIPOが中心で、MBOは異例です。IPOを選ばなかったのはなぜだったのでしょうか。

滝野:
UTECは、当初、IPOを打診してきていました。通常ならIPOという選択になるでしょう。ただ、私たちにはまだ早かった。上場すればMUJINの認知度が高まり、きっと多くの引き合いがくると思います。しかし、いまIPOすると、供給体制がまだ整っていないために、せっかくの引き合いに「ちょっと待ってください」と言わざるを得なくなる。これでは逆に評判が下がるおそれがあります。

また、私たちが手掛ける分野は重厚長大で、経営に長期的な視点が欠かせません。時期尚早にIPOして一般の個人投資家が増えると、そのあたりを理解してもらうためのIRコストがバカにならない。IPOを否定するつもりはまったくないですが、他のエグジットとしてMBOする道を探りました。MUJINが長期的な視野に立って重厚長大な産業界を変えられるように、UTEC代表の郷治友孝さんとも何度も議論を重ねて、最終的にMBOによるイグジットにご協力いただきました。

イグジット後は、投資家と投資先という関係ではなくなりましたが、早速、新しいロボットベンチャーの立ち上げにUTECと一緒に取り組むなど、これまでとは違った形での協力関係が続いています。UTECから投資を受けた私たちが成功して、私たちもまた一緒にベンチャーに投資していく。そうやってエコシステムを形成していくことができれば、日本の未来も明るくなるんじゃないでしょうか。