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11 STORY Institution for a Global Society

人の成長に終わりはない

Institution for a Global Society 株式会社
代表取締役社長
Masahiro Fukuhara

PROLOGUE

「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、をつくる。」というビジョンを掲げるInstitution for a Global Society株式会社(以下IGS)。このビジョンからわかるように同社のコア技術はPeople AnalyticsとEdTech。評価の領域では、他者評価データを活用した採用支援や人材開発ソリューション「GROW360」を企業向けに、そして生徒・学生の能力と教育効果を可視化する評価ツール「Ai GROW」を教育機関向けに展開。さらに企業向けには「DX GROW」、教育機関向けに「GROW Academy」といった教育コンテンツを提供しています。とくに「GROW360」はHRTechの先駆けとして評価が高く、ハーバードビジネススクールのケースとして取り上げられています。創業者の福原正大氏は元銀行マンで、世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック)で、35歳にして最年少マネージングダイレクターになるなど金融業界でキャリアを積みました。世界を舞台に活躍していた金融パーソンが、なぜHRTech & EdTechの領域で起業したのか。思いを語ってもらいました。

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SECTION01 : AIを活用してバイアスのない公正な評価を

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SECTION01

AIを活用してバイアスのない
公正な評価を

IGSが提供する評価ツールは、二つの特徴的なテクノロジーが使われています。一つは、本人も認識・対策できない形で潜在的な気質やバイアスを測定する「Implicit Association Test(以下IAT、潜在連合テスト)」、もう一つはAIを駆使して360度評価(評価者評価)の評価バイアスを補正する技術です。これらの技術を用いることで、人事や教育はどのように変わるのでしょうか。

福原:
IGSが東京大学大学院の藤本徹先生や木村充先生(現在、立教大学社会情報教育研究センター)らと評価の研究を始めたのは2013年でした。人の能力を形作るのはコンピテンシーやスキルだけではありません。ベースにあるのは本人が生まれ持った潜在的な性格である「気質」であり、それを可視化しなければ能力評価はできません。そこでそれまでゲームなどで使われていたIATで気質を測定する技術を開発しました。

一方、気質やコンピテンシー、スキルの評価につきものなのがバイアスです。とくに360度評価などの他者評価は忖度が起きやすく、バイアスを取り除いてはじめて公正な評価になります。そこで他者評価入力時のログを分析したり、評価者の評価能力を分析する技術を開発して、バイアスが少なく精度の高い評価を実現しました。

これらの技術を最初に実装したのが、当時は新卒採用の支援ツールだった「GROW360」です。学生にアプリをダウンロードしてもらい、本人をよく知る人に他者評価を依頼。たとえばこのとき入力速度などに異常値があれば、「友達のスマホを借りて本人が入力した」などの不正が行われた可能性が高い。そういった情報をデータから検知してバイアスを減らしていきます。また、企業側からも応募者のデータをフィードバックしてもらい、それを教師データとして活用することで評価の精度を高めています。

採用支援で確立した評価の仕組みは、現在、二つの方向に拡張しています。一つは、社内人材の評価です。当初は若手社員を対象に利用する企業が多かったのですが、今では全社員、さらに経営層の評価に活用する企業も現れています。もう一つは、高校生や中学生など教育領域での評価です。学習指導要領が変わって探究型学習が始まるタイミングだったこともあり、導入する学校が急増。2022年9月末現在、国内外250校以上で利用いただいています。

二つの方向で利用が広がったことで、2022年9月末現在、幼稚園児から経営者まで全国86万人の評価データが溜まっています。データが増えればそれだけ精度が高まります。また、私たちの目標は人が持続可能な形で生涯学び続けられる社会をつくること。一生に渡る評価や教育の履歴データを収集・分析することで、長期的な視点で人の成長に寄与できるようになるでしょう。

SECTION02 : 日本人の人材競争力低下に危機感

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SECTION02

日本人の人材競争力低下に危機感

もともとは金融業界で活躍していた福原氏ですが、一念発起して2010年にIGSを設立。当初はグローバル人材を育てる学習塾事業を展開していました。なぜ畑違いの領域から転身して、人材や教育の領域で社会に変革を起こそうと考えたのでしょうか。

福原:
世界の金融業界で仕事をするうちに痛感したことがあります。それは日本人の人材競争力の低下です。その原因は何か。私は学歴偏重型の社会に問題があると考えています。海外の入試では、答えのない哲学的な問いも出題され、知識や論理的思考力を総動員してその問いに向かい合うことを求められます。一方、これまでの日本の入試では正解のある問題ばかりが出題され、そこで勝ち取った評価が社会に出ても続いていく。これでは、正解のない問題を解決していく力は身につきません。海外との差は広がるばかりです。

そうした問題意識から2010年に起業して塾事業を始めました。実際に教育に関わるようになって気づいたのは、深い自己認識が教育のコアだということ。まず自分がどのような人間か知らなければ、正解のない問題に向かい合うことも難しいのです。その領域でどのようなテクノロジーが活用されているのか、ニューヨークやボストンの友人にも話を聞いてリサーチしました。しかし、日本はもちろん海外にも突出したものがない。ならば自分で研究してみようと、2013年から東大の先生方とバイアスのない評価システムの開発を開始。塾事業を一部譲渡して、HRTech & EdTechに舵を切りました。

ツールは2016年にできあがりました。開発資金は塾事業の一部譲渡益などで賄えましたが、世界に打って出るならファンディングも必要です。そこで知人から紹介してもらったのがUTECです。初対面の日はよく覚えています。当時、私たちはマンションの一室を事務所として使っていました。狭い部屋だったので不安にならないか心配でしたが、やってきた坂本さんと山本さんは気にする様子はなく、「他者評価の蓄積とバイアスを除く技術が絶対的価値」と言ってくれました。まさにバイアスなく本質に切り込む姿勢を見て、この人たちは信用できると思いました。

NEXT

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PROBLEM

2016年、IGSは他者評価からバイアスを除く技術を活用して、就活生と企業のマッチングを支援するツールをリリースします。どちらも登録数が増えて順風満帆に見えましたが、就活生と求人企業のミスマッチが起きて、成功報酬型だった事業は売上が立たずに窮地に陥ります。ピボットの背中を押したのはUTECでした。

SECTION03 : 会社の裏の裏まで知っているから信頼できる

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SECTION03

会社の裏の裏まで知っているから
信頼できる

最初にリリースしたツールは就活生に直接アプローチするBtoCモデルでした。しかし、マネタイズに苦労した結果、自社に合った人材を正しく評価して採用したい企業にツールを導入してもらうBtoBモデルに転換。その意思決定をはじめ、さまざまな場面でUTECのバリューアップがありました。

福原:
坂本さんはコンサルファーム出身でビジネスの知見が豊富で、投資家としても多くのベンチャーを見ているから、事業の弱点を瞬時に見抜く力がある。最初のツールで半年間まったく売上が立たなかったとき、ズバッと「ピボットしましょう」と助言してくれました。このピボットは、当然かなりの勇気が要ります。しかし、坂本さんは徹底したハンズオンタイプ。社内のSlackも見ていて、私がアクティブになっていないと「どうしたんですか」とメールが飛んでくるくらい細かい(笑)。我が社の裏の裏まで知り尽くしている人だから、アドバイスも真摯に受け止めることができました。

坂本さんはクールな切れ者に見えますが、実は誰より熱い男です。私も簡単に折れないタイプなので、議論が口論になることもありました。その夜にはどちらからともなく「さっきは言い過ぎました」とメールで仲直りをするのが毎度のパターン(笑)。経営の重要な意思決定の場面では、こうした熱い議論を通していつも坂本さんに関わってもらっていました。

社内で汚れ役を進んで引き受けてくれたことにも感謝しています。会社を成長させるため、経営者が社員に厳しいことを言わなければいけない場面は当然出てきます。ただ、私が昔から一緒にやってきたメンバーにそれを言えないでいたら、坂本さんが察して言ってくれた。自分の甘さを反省するとともに、とても頼もしく思いました。

FINAL SECTION : 誰もが学び続けられる社会に

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

誰もが学び続けられる社会に

IGSは2021年12月29日、東証マザーズ市場に上場しました(現在は東証グロース市場に上場)。IPOはゴールではなくスタート。福原氏はこれから何を目指すのでしょうか。

福原:
私たちは上場について何も知識がありませんでしたが、UTECは上場するまでにやらなくてはいけないことを、誰にでもわかる形式知として教えてくれました。また、主幹事となる証券会社との交渉でも、「UTECの投資先」であることで信頼いただきやすい面もあったのではないかと思います。UTECの支援があったからこそ、このタイミングで上場できたと思っています。

IGSが目指すのは、バイアスのない世界、そして誰もが持続可能な形で学び続けられる世界です。その意味で、「分断なき持続可能な社会を実現するための手段を提供する」というパーパスを2021年から掲げています。ここで述べている「手段」を、Web3.0という新しい世界観の中で実現できるのではないかと考え、ブロックチェーンを活用して、個人情報を守りながら学習履歴を記録する「STAR」というサービスを開発しました。学生は、開示したい企業に対して、開示したい範囲の個人情報を提供することでSTAR上のコインを得ることができ、そのコインを活用して講座などを受けることができます。これを慶應義塾大学FinTEKセンターなど12の参画企業・団体に提供して、3年間の実証実験を行っています。2022年9月末時点で全国の大学生・大学院生8,000名以上が登録しています。STARは、自己成長に資するデータを自分でコントロールし、学ぶことができるシステムです。今後もさらにアップデートしながら、誰もが持続可能な形で学び続けられる社会をつくっていきたいと思います。