FROM ENTREPRENEURS

03 STORY GLM UTEC

世界を変えよう。
日本発の「心躍るEV」で。

GLM株式会社
代表取締役
Hiroyasu Koma
UTEC パートナー Keisuke Ide

PROLOGUE

世界的な温暖化や環境汚染への取組の中、内燃機関から電気自動車への移行が先進国や主要自動車メーカー主導で行われています。 そんな中、日本のEVベンチャー・GLMが、香港の投資会社であるオーラックスホールディングスと大型の資本提携を行ったことは様々なメディアで報じられました。GLMは、革新的なEVを開発する「完成車事業」と、サードパーティがGLMの技術を用いてオリジナルのEVを開発できる「プラットフォーム事業」を展開しています。2つの顔を持ち合わせるGLMのミッションは、日本の優れた技術とともにEVの世界市場を開拓すること。その創業から今後の展望までを、同社の代表取締役 小間裕康と、UTECパートナー 井出啓介が語ります。

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SECTION01 : 「心踊るEV」を目指して

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SECTION01

「心踊るEV」を目指して

2014年に販売開始されたスポーツEV 「トミーカイラZZ」によって、GLMの完成車事業は広く知られるようになりました。長らく「幻のスポーツカー」と呼ばれていたトミーカイラZZを、GLMはEVとしてオリジナル設計で復刻しました。
トミーカイラZZの誕生は1997年に遡ります。開発したのは京都の自動車チューニングメーカー「トミタ夢工場」。トミーカイラZZという名前は、同社社長の富田義一、そして副社長の解良(カイラ)喜久雄の名前を組み合わせたものです。
エアコンやパワーステアリングなどの装備を削ぎ落とし、走ることだけを純粋に追求したその走行性能は、まさに「公道を走るレーシングカー」。車好きにとって、心躍る名車でした。
同車はイギリスで生産され、日本へ逆輸入されていました。しかし1999年、当時の運輸省(現・国土交通省)の保安基準の改正により同車は大幅な構造変更を余儀なくされることになり、多くのファンに惜しまれながらも販売中止になります。 それから15年の時を経て、GLMがEVとしてトミーカイラZZを蘇らせたのです。

小間:
トミーカイラZZの開発は、「本当にベンチャーが自動車を作れるのか?」という問いに対する、EVベンチャーとしての弊社の答でした。実際に国土交通省からの認証を取得して発売できたことは、GLMのブランドとしての価値を向上させ、最先端の技術がGLMの商品に投じられる仕組みをつくることを促しました。また、日本国内で初めてベンチャー企業がEVを製造・販売したという実績でもあり、この成果は2017年現在における当社の最新EV「GLM G4」の開発にもつながりました。
井出:
トミーカイラZZは、GLMのフラッグシップ車であると同時に、プラットフォーム事業を推進する上で非常に重要なマーケティングツールにもなっています。投資家としては、この車を完成させる、というのが一つ目のマイルストーンでした。

中規模生産体制での生産・納品を開始しているトミーカイラZZの開発を通しGLMは、素材メーカー、部品サプライヤーを含む200社以上の企業に対しアライアンスパートナーとしてのネットワークを確立しています。高品位な機能とデザインを持ち合わせたEVを生み出してゆくための土台が生まれたのです。

小間:
私たちはわくわくするような、心躍るEVを世界に提案していきたいと考えています。私たちは地球環境に配慮した自動車づくりをしていきたいと考え、GLMを起業しました。しかし、「環境に良い」と言ってモノが売れるわけでもなく、「経済的である」という理由だけで誰もがEVを選択するわけではありません。人が乗りたいのは、どんな時代も心躍るような自動車であるはずです。EVによって、本当に地球環境に貢献するためには、わくわくできるものづくりをして、人々の心を動かしてゆくことが最も重要なのです。それを広く世界へと提案してゆくことが、GLMの自動車づくりなのです。

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SECTION02

自動車産業を、水平分業へと
シフトさせる

自動車の製造は、言ってみればオーケストラのようなものづくりです。EVにおけるシャシー(車台)、パワートレイン(動力系統)、制御コントロールユニット(VCU)…膨大な量の部品がその性能を最大限に発揮し、ハーモニーを奏でることで、心躍る自動車が生まれるのです。
GLMは完成車事業で蓄積した技術をパッケージ化。サードパーティーへ提供することで、さまざまな企業がGLMの技術を用いてオリジナルのEVを開発することを可能にする「プラットフォーム事業」を展開しています。

小間:
私たちは完成車事業を通して国内で作り上げた、日本の良質な部品サプライヤーとのエコシステム、そして開発のノウハウを、国内外のEVメーカーに対して提供してゆきます。日本の国土交通省が定める、高いレベルの安全性をクリアすることはとても難易度の高いことで、非常に高いエンジニアリング力が必要です。我々はこのノウハウを、プラットフォーム事業を通して世界中のEVメーカーへ提供することで、世界のEV産業の発展と向上に貢献しようと考えています。17年7月には香港の上場投資会社との資本提携を発表し、世界レベルの資本力を後ろ盾に持つことになりました。日本の技術を世界に広める土台が出来たと思っています。

また小間氏はGLMのプラットフォーム事業を通し、自動車産業を従来の「垂直統合型」から「水平分業型」のビジネスモデルへと変革することを目指します。

小間:
私たち自身は小さな資本力のベンチャーですから、いきなり数十万台といった規模の大量生産は手がけられません。しかし海外の大手自動車メーカーの心臓部にGLMの技術が採用されれば、結果として、GLMに関連した日本のものづくりの技術が大量生産されることになります。
日本の自動車産業は非常に高いレベルの環境を持っているのですが、現実的には、それを「系列」という枠内でしか扱うことができない。つまり、1つの自動車会社のためにその系列全体の力を使うというような、垂直統合型のビジネスモデルで成り立っています。しかし未来は、水平分業によって系列をこえた部品サプライヤーのネットワークを活用したものづくりをすることが求められてくると想定しています。それに応えるのが、私たちのプラットフォーム事業なのです。このような変革は、過去20年間で情報機器産業で起こった素晴らしいイノベーションを、自動車業界にももたらすと考えています。

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SECTION03

”2つのキャップ”を持つ投資家

小間氏と井出の出会いはGLMの創業直後に遡ります。しかし井出が投資の決断をしたのはかなり時間が経った後でした。

井出:
創業直後にお会いして、EVを作る構想をお聞きしました。しかし完成車のみの事業モデルはUTECの投資方針である「グローバルな課題の解決」とは少し違うと。それからなんどもディスカッションを重ね、「将来のEV市場の拡大を見据え、EVメーカーにとって非常に重要な部品であるシャシーやドライブトレインを外販するBtoBのビジネスと、完成車をつくって販売するBtoCのビジネスを組み合わせて展開する」という事業モデルの可能性を小間さんと議論しました。垂直統合型が当たり前だった自動車産業のビジネスモデルを再発明し、水平分業化しようというわけです。IT産業の進化を目の当たりにしていた小間さんと私はその事業可能性にとてもわくわくしたことを覚えています。

初期のGLMには経営メンバーが揃っていませんでした。井出は時に投資家として、またある時は、まるでGLMのメンバーとして事業に深く関わっていったといいます。

小間:
井出さんと出会ったことで、私たちは事業モデルやファイナンスに対する考え方を大きく刷新することができたと思っています。井出さんはよく「キャップをかぶり分ける」と話しています。たとえば私が資金調達に困っていると、「その提案を、投資家のキャップをかぶって聞くと、この部分のロジックが気になるわけです。私がGLM取締役のキャップをかぶって提案するとしたら、こうなります…」といった言い方で、自身は投資家でありながら、起業家である私たちの立場にも立って、様々なアドバイスをしていただけた。
井出:
小間さんはビジョナリーなので「わくわくすること」への感度が非常に高い。その具現化をサポートするのがVCの役目だと思っているわけですが、事業を継続する為にリアルな数字に落とし込むにはどんなプロセスが必要か、ということを常に提案させていただいたつもりでいます。

シリーズCの資金調達の際には、開発に遅れをきたす場面もありました。その際井出は、小間氏らとともに国内外のVCへの説明にも取締役として参加。さらに海外で非常に重要な契約を締結する際にも同行し、14時間にわたる契約交渉を行いました。

井出:
自動車開発には資金力が必要ですし市場は必然的にグローバルです。GLMは日本だけではなく、海外の企業との業務提携、また投資家との資本提携も積極的に行ってきました。台湾やサウジアラビアの政府系ファンドからの出資を受けておりますが、UTECが東京大学と強い関係を持ち、GLMの技術力を明確に説明できたことは資金調達に大きく貢献したと思います。

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

自動車の新産業を創出する

小間:
今後、おそらく自動車産業におけるビジネスモデルは大きく2つに分かれてゆくだろうと考えています。ひとつは「所有する価値を提供する」こと。最先端技術の結晶のような高付加価値の自動車を提供するビジネスモデルです。主にイノベーター層やアーリーアダプター層を対象とした、小さなマーケットへのビジネスです。
もうひとつは「非所有の価値を提供する」こと。ライドシェアやレンタカーのような、自動車を使ったサービスを提供するビジネスモデルです。おそらく今後はこちらのマーケットがより大きくなると考えています。
今後消費者の多くは自動車を買わず、サービスとしての自動車を買うようになると考えられます。この自動車の新産業の創造に、私たちのプラットフォーム事業で応えていきたいと思っています。

GLMのプラットフォーム事業では、複数のシャシーにモーター、インバータ、バッテリーモジュール、VCU等を組み合わせ、目的に合わせたEVシステムを実現する「マルチプルEVシステム」を展開しています。また、自動車を様々な外部サービスと連携し(Vehicle to Service)、道路インフラと協調させる(Vehicle to Infrastructure)機能の実装も可能です。
そして、このプラットフォーム事業には、各分野200社以上の日本企業がアライアンスパートナーとして関わっています。GLMはまさに、世界に注目される日本の素材メーカー、部品サプライヤーを集めた、自動車業界におけるテクノロジーショーケースなのです。

小間:
プラットフォーム事業で、自動車メーカーからの量産レベルのニーズに応えることがこれから5年先の未来におけるGLMのひとつのマイルストーンです。すでに中国ほかアジアを中心とする大手自動車メーカーからお話をいただいています。1台から数百万台までの自動車をつくれる環境を構築することができれば、GLMは自動車の新産業の創造に大きく寄与できると考えています。そしてグローバルマーケットの中で、日本のテクノロジー企業が躍進できるエコシステムをつくることを目指しています。

日本発の「心躍るEV」で、世界の新しい自動車産業をつくっていくこと。それがGLMのミッションなのです。