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08 STORY Fyusion UTEC

リモートで活躍!現実世界を
3Dデータ化した「空間写真」

Fyusion, Inc. CEO UTEC取締役/パートナー Noriaki Sakamoto

PROLOGUE

米国サンフランシスコに本拠を置くFyusion。同社が開発しているのは、最先端の3D画像処理アルゴリズムを用いた、没入感のある革新的な画像の記録方式です。この新技術を活用した「空間写真」方式は、カメラが移動した空間を記録することを可能にし、見る人は撮影者の見た光景と世界を「空間写真」を通じて追体験できます。アメリカでは中古車販売事業者がこの技術をアプリに採用。売り手がスマートフォンで車両の外装360°3D画像を撮影することで、買い手はリモート環境で車両の状態を即座に確認できるようになりました。2013年に同社を設立したのは、ロボット・インキュベーターとして有名な米国Willow Garageで3D認識技術分野を率いていたRadu B. Rusu博士とロボット科学者たち。創業後、いかにして成長を遂げたのか。UTECに入社して最初に携わった仕事の一つがFyusionだったというUTEC取締役/パートナーの坂本教晃がRadu博士に迫ります。

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SECTION01 : 3Dの世界をマッピングするアルゴリズムを開発

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SECTION01

3Dの世界をマッピングする
アルゴリズムを開発

ロボット工学とテクノロジーの専門知識を結集させて、機械学習を用いて3Dの世界を理解しマッピングするアルゴリズムを、かつてないほどの高精度で革新したFyusion。開発のポイントはどこにあったのでしょうか。

坂本:
Radu博士がFyusionを設立するに至った経緯を教えてください。
Radu:
私がミュンヘン工科大学でロボット工学の博士号を取得したとき、3Dデータを扱う上でアルゴリズムがもっとも進歩が求められている分野であることに気づいていました。ロボット工学の世界では、許容される誤差が非常に小さく、つねに高い精度が求められます。かつては誰もが、ロボットを通して見るピクセルの世界を2Dで分析しようとしていました。しかし、2Dでは求められる十分な精度が得られないことは明白でした。ロボットを通して見る世界を3Dの実体として考えるためには、3Dの世界を「マッピング」して「理解」することができるデバイス固有のアルゴリズムが必要だったのです。

しかし、3Dアルゴリズムの開発には問題がありました。研究を10年間続けた結果、アルゴリズムは十分に進化しているものの、そのアルゴリズムを実行するためのデータポイントが足りないという仮説に至りました。

多くの機関や企業が多額の資金やマンパワーを使って3Dデータを収集しようとしていました。しかし、それらの方法はサステイナブルとは思えませんでした。ならば、ロボットを活用したデータ収集はどうか。実はこれも困難でした。当時、データを生成するだけのロボットが世界に存在しませんでした。そのロボットを生産しようにも、データがあって有効な活用が示されないかぎり、大規模に生産されることはありません。データが先か、ロボットが先か。いわば「ニワトリ卵」の状態に陥っていました。
坂本:
どこでブレイクスルーがあったのでしょうか。
Radu:
きっかけは、優れたカメラでデータを収集し、高度な処理装置を搭載したiPhoneの爆発的普及です。iPhoneは2つのCPUコアが搭載されていたため、カメラで収集した3Dデータを1つのCPUで処理して、もう1つのCPUでデータをリアルタイムにアルゴリズム処理することが可能でした。

ここにチャンスがあると考えた私は、2013年にFyusionを設立して、世界を効率的かつ正確に表現する新しいデータフォーマットを作成し、そのデータを使って新しいアプリケーションに対応するアルゴリズムを構築しました。翌年の2014年には、iPhone 4Sで最初のアプリケーションをローンチしました。

SECTION02 : 起業家にとって「ベストディール」とは何か?

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SECTION02

起業家にとって
「ベストディール」とは何か?

Fyusionの創業は2013年です。UTECとの出会いは、その前年。経緯を明かしてもらいました。

坂本:
私がUTECにジョインしたのは2014年で、そのときにはすでにFyusionが投資先になっていました。そもそもの出会いを振り返ってもらえますか。
Radu:
私たちとUTECの物語は、私がシリコンバレーのWillow Garageにいたときに始まります。当時、私は同社で取り組んでいた「Point Cloud Library」プロジェクトを独立させ、Open Perceptionという会社を立ち上げていました。そこに、Willow Garage時代の同僚であるロセン・ディアンコフ博士から連絡がありました。ロセン博士は、東京大学でポスドクをするために日本に移り、ロボットスタートアップのMUJINを立ち上げていました。そして知覚の専門家である私と協業できないかと打診を受けたのです。

ロセンに会いに行くため、2012年、私は後にFyusionを共同創業するスティーブン・ミラーと共に来日しました。滞在中、日本の投資家向けにデモンストレーションを行いました。そこに、MUJINの初期投資家であるUTECのTed山本氏がいたのです。
坂本:
Tedは何と?
Radu:
Tedは、私たちのデモを見てとても感動していましたね。Tedはプレゼンテーションだけではなく、実際にデモが動いているところを見るのが本当に好きなのです。私は彼と一気に打ち解けました。彼は「Raduが会社を興すことがあったら、すぐに私に知らせてくれ」と言ってくれました。半分冗談だったのかもしれませんが、私は「これでいつでも起業に関してUTECに相談できる」と理解しました。

実際、2013年にFyusionを法人化して投資家を探していたときは、Fyusionに関心を持ってくれた投資家について、Tedによく相談しました。いったい誰からお金をもらうべきで、誰からお金をもらうべきではないのか。Tedは多くの投資家と仕事をしてきたので、非常に参考になるインサイトを与えてくれました。具体的な名前は言えませんがね(笑)。
坂本:
UTECはRadu博士がOpen Perception時代にMUJINに提供したものを見て、最初から信頼を寄せていたと聞いています。投資の打診をしたのは、3号ファンド立ち上げに向けて動き出した2013年秋でした。
Radu:
最近の起業家は、バリュエーションなどの「ベストディール」を求めて投資家をショップし過ぎますよね。シード・アーリーステージの起業家にとって本当の意味での「ベストディール」は、自身の会社の成長に向けてその価値を最大限に高めることができるディールのこと。それを実現するには投資家との強い信頼関係が重要ですが、Tedと私たちにはすでにそうした関係ができており、交渉はあまり必要ありませんでした。

NEXT

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PROBLEM

2014年、FyusionはUTECをリードとしてシリーズAで資金調達。そこから急速な成長を遂げますが、たびたび悩ましい場面に直面したと言います。

SECTION03 : 起業家が投資家に求めるのは、
「忍耐力」と「アドバイス」

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SECTION03

起業家が投資家に求めるのは、
「忍耐力」と「アドバイス」

UTECは海を越えてどのようなバリューアップを行ったのか。Radu博士は「真に国際的なビジョンを持てた」と振り返ります。

坂本:
2014年、UTECに入社したばかり私の最初の仕事の一つが、ギークなコスプレ・フェスティバルに行って、Fyusionの写真をできるだけ多く撮ることでした。あの仕事は、初期のUTECでのもっとも印象的な出来事の一つです。
Radu:
はっきりと覚えていますよ(笑)。もちろんUTECにサポートしてもらったのはそれだけではありません。私が助けられたと感じたのは、Fyusionが厳しい状態であったときに見せた忍耐力、そして豊富な経験にもとづいて提供されるカウンセリングとアドバイスです。

起業家は「北極星」とも言うべきブレない壮大な目標を持っていますが、それを実現するのは簡単ではありません。森の中で道に迷わないように出口を探したり、地雷原で間違った手順を踏まないように注意が必要です。スタートアップの経営は長い道のりで、エグジットに10年かかる場合もあります。その間、忍耐強く待ってもらったり、適切なアドバイスをくれるパートナーは本当に心強い存在です。
坂本:
具体的にUTECはFyusionにどのような価値を与えましたか。
Radu:
私たちは最初、コンシューマー向けのプラットフォームを作りたいと考えていました。しかし、企業向けアプリケーション、とくにロボット分野のビジネスを本格的に推進するためのガイダンスを与えてくれたのはUTECでした。アドバイスするといっても、UTECは私のアントレプレナーシップを尊重し、意思決定を強制することはありません。そのため、最後はつねに私自身が責任を持ってリーダーシップをとることができました。

また、UTECは私たちに真に国際的なビジョンを持つように促してくれました。どの国でもビジネスができるプラットフォームの構築について、目線の高い議論をしてくれたのです。さらに、資金調達のたびに私たちのエクイティストーリーづくりをサポートしてくれたことも助かりました。実際、UTECの支援で、日本を含めた世界中の投資家・事業会社から資金を調達することができました。
坂本:
人事採用面のサポートはどうでしたか。
Radu:
世界で会社を成長させるためには、文化や言語の壁、米国西海岸との時差を克服できる現地のジェネラルマネージャーが必要です。私は日本に優秀な人材がいることを知っていました。しかし問題は、その優秀な人材に、当社のビジネスには全力で取り組む価値があることを納得してもらうことです。ここでもUTECは決定的な役割を果たしてくれて、日本カントリー・マネージャーやプリンシパル・ソフトウェア・エンジニアなど、ビジネスとテクノロジーの分野でトップの人材を見つけ出し、採用のサポートをしてくれました。

FINAL SECTION : パンデミックをきっかけにエグジット

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

パンデミックをきっかけに
エグジット

2020年、Fyusionは、米国自動車卸売市場のトップであるCox Automotiveに株式譲渡を行いました。

坂本:
エグジットについて教えていただけますでしょうか。
Radu:
エグジットについては、計画と違って予想外でした。2020年、パンデミックで人が直接行えないことが増え、私たちが事業展開するデジタル化や情報抽出支援の分野はニーズが高まりました。自動車業界においてもそれらの技術のニーズが高まっていましたが、Fyusionは開放性と透明性の精神にもとづいて、私たちのツールを無償で提供することにしました。その結果、私たちへの業界からの関心が一気に高まり、資金調達ラウンドを当初予定していた2021年夏ではなく、前倒しで2020年に行うことを決めました。

このとき自動車卸売業のCox Automotiveから、Fyusion全体の買収提案がありました。創業以来、毎年のように企業から買収話が出ていましたが、今回は彼らの本気を感じました。Cox Automotiveは、私たちを彼らのビジネスを助けにするだけでなく、私たち自身を新たな成長ステージへと導いてくれると感じたのです。

Cox Automotiveとは2014年からの付き合いで、多くの試作品を一緒に作ってきました。そしてUTECと同様に、我々の浮き沈み―たとえば製品を予定通りに提供できなかったとき―をともにしてくれました。長年にわたって築いてきた強固な信頼関係もあって、合併は取締役会で全会一致で合併が承認されました。

この合併のもっとも魅力的な点は、Fyusionが大きな組織に吸収されるのではなく、準子会社として独立した存在として事業を続けられることでしょう。今回の合併では、Fyusionの全従業員を残しました。今回の合併は、将来の成長のための触媒です。このエグジットをさらなる飛躍のきっかけにしたいですね。