FROM ENTREPRENEURS

06 STORY AI
inside
UTEC

あらゆる人・物にAIが
入り込んだ世界を

AI inside 株式会社
代表取締役社長CEO
Taku Toguchi
UTECパートナー Keisuke Ide

PROLOGUE

生産人口の減少が始まっている日本。豊かさを維持するには、生産性の向上が欠かせません。そのためのツールとしていま期待が高まっているのがAIです。これまで人間しかできないと思われていた高度かつ煩雑な作業をAIに任せることで、人間はより付加価値の高い業務に集中して、少ない人数でこれまで以上のアウトプットを出せるようになります。AI inside株式会社は、AIを社会の隅々に浸透させることを目標にしている先端企業です。手始めに展開したAI-OCR製品「DX Suite」は多くのユーザーを獲得して、同社は急成長のSaaS企業として注目されています。代表取締役社長CEO渡久地択氏の狙いに、上場前に並走したUTECパートナー井出啓介が迫ります。

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SECTION01 : “200年後の未来”を描いて起業

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SECTION01

“200年後の未来”を描いて起業

AI insideの設立は2015年8月です。しかし、渡久地さんは2004年に初めて起業をしたときから将来はAI事業を展開することを決めていたといいます。

井出:
渡久地さんは起業するとき、200年分の未来年表をつくったそうですね。
渡久地:
単純に、未来がわかっていたらビジネスで勝ちやすいじゃないですか。そう思って、高校を卒業するときに200年先までのタイムラインを自分なりにつくってみたのです。そこで浮かび上がったのが、AIと宇宙というテーマです。

ただ、私が起業した2004年当時はコンピュータのスペックが低くて、AIでできることはほとんどありませんでした。一方、ICチップの性能が約2年で倍になるという「ムーアの法則」では、2018~2020年くらいに性能の限界がくると指摘されていた。2004年にすぐAI事業はできなくても、将来に向けて準備を進めて、2020年にはAIビジネスのスタートラインに立っておきたいという青写真で起業しました。

当初はグルメサイトをつくって運営していましたね。ただ、AIのエッセンスも入れていたんですよ。昔からニューラルネットワークの技術はあって、自然言語の分析はそれなりにできた。それを活用して、いまでいうチャットボットの機能を組みこんでいました。
井出:
AI分野は、2012年にディ―プラーニングで技術的なブレイクスルーがあって、一気に可能性が広がりました。ただ、そのころ注目されていたのは画像認識でした。渡久地さんはなぜ文字認識を?
渡久地:
画像認識についても、技術的に何ができるのかとさまざまな検証はしていました。しかし、ビジネスとしては文字認識をやると決めていました。日本の生産人口はすでに減り始めていて、企業にとって生産性の向上が大きな課題になりつつありました。人がやっていた作業のうち、企業の外注費がもっとも大きかったのがデータ入力です。その作業を自動化するニーズが高まっていくのは明らかです。そう判断して、2014年ごろには文字認識にフォーカスして研究開発を行い、実際にお客様のところを回って、帳票をもらって実験していました。

SECTION02 : 最初はVCから投資してもらうつもりはなかった

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SECTION02

最初はVCから投資して
もらうつもりはなかった

現場で実験を重ねて精度向上に努めていたころ、あるカンファレンスで井出は渡久地さんに出会います。

井出:
私が存在を知ったのは、NVIDIAさんの「GTC2017」というカンファレンスでした。AI insideはNVIDIA社の認定を受けていて、カンファレンスのスタートアップピッチに参加していました。そこで渡久地さんのプレゼンを拝見してまず驚いたのは技術です。私自身相当に字が汚いのですが、私よりさらに汚い字もきちんと認識していて、これはすごいなと。

プロダクタイズが明確になっていたことも魅力でした。当時AIが注目を集めていて、AIのスタートアップが次々に誕生していました。ただ、その多くはAI技術を企業に提供するコンサルティング会社でした。コンサルティングはスケールしにくいビジネスなので、VC投資としてはピンとこない。一方、AI insideはプロダクトを開発中で、ぜひ詳しく話を聞かせていただきたいと思いました。それですぐ名刺交換させてもらったのですが、最初はつれなかったですよね?(笑)
渡久地:
はは、当時は「VCから投資は受けないでおこう」と思っていたので……。井出さんからお話があったとき、すでに保険会社と資本業務提携をしていて、さらにBPO展開する事業会社との提携も裏で話が進んでいました。そうしたタイミングだったので、そもそも資金需要がなかったのです。

正直に明かすと、本当は話をするつもりもありませんでした。事業会社との提携なら、IPOが多少遅れても私たちの技術でビジネスのお手伝いができます。しかし、VCから投資を受けると数年以内にIPOして期待に応えないといけないと思ったのです。そのプレッシャーに耐えられる自信はなかったし、期待に応えるために無理な意思決定をしなければならなくなるのではないかと心配していました。

ただ、何度かお話をして、UTECは自分が思っていたVCと違うなと。VCって、「資本政策はどうするの?」「調達用の資料キット見せて」から入る方が多いじゃないですか。しかし、井出さんは「どのようなビジョンを描いているのか」「技術はどうなっているのか」という話が中心でした。UTECなら一緒のビジョンのもとに私たちに足りないところをいろいろサポートしてくれるのではないかと、大きく印象が変わりましたね。
渡久地:
はは、当時は「VCから投資は受けないでおこう」と思っていたので……。井出さんからお話があったとき、すでに保険会社と資本業務提携をしていて、さらにBPO展開する事業会社との提携も裏で話が進んでいました。そうしたタイミングだったので、そもそも資金需要がなかったのです。

正直に明かすと、本当は話をするつもりもありませんでした。事業会社との提携なら、IPOが多少遅れても私たちの技術でビジネスのお手伝いができます。しかし、VCから投資を受けると数年以内にIPOして期待に応えないといけないと思ったのです。そのプレッシャーに耐えられる自信はなかったし、期待に応えるために無理な意思決定をしなければならなくなるのではないかと心配していました。

ただ、何度かお話をして、UTECは自分が思っていたVCと違うなと。VCって、「資本政策はどうするの?」「調達用の資料キット見せて」から入る方が多いじゃないですか。しかし、井出さんは「どのようなビジョンを描いているのか」「技術はどうなっているのか」という話が中心でした。UTECなら一緒のビジョンのもとに私たちに足りないところをいろいろサポートしてくれるのではないかと、大きく印象が変わりましたね。

NEXT

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PROBLEM

AI inside は2018年7月、UTECをリードインベスターとした同社初のVCラウンドで資金調達しました。ユーザー数が急拡大する中、次のステージに向けての課題に取り組む必要がありました。

SECTION03 : グローバル展開に向けて布石を打つ

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SECTION03

グローバル展開に向けて
布石を打つ

AI-OCR「DX Suite」のリリース後、順調に業容を拡大したAI inside ですが、UTECからはどのようなバリューアップを受けたのでしょうか。

井出:
AI insideは、私がこれまで関わった中でもっとも手がかからなかった投資先でした。たとえば優れた技術があるがゆえに「何にでも使えますよ」という見せ方をしてしまうベンチャーは少なくありません。しかし、プロダクト開発や営業のコストを考えると全方位的なマーケティングはリスクが高い。その点、渡久地さんはすでに「金融」と「BPO」にセグメントを絞っていた。営業の方と一緒に合宿もしましたが、私はフレームワークを使って整理する程度でした。

それなりに貢献ができたのは、IPOのためのストーリーづくりでしょうか。市場から評価を得るには魅力的なストーリーが必要です。なかでも、グローバル展開は市場からの関心が高い。ストーリーを描くために、一緒に台湾に行って金融機関やSIer、メーカーなどを回ったんですよね。
渡久地:
教師データがあれば他の言語展開は難しくないので、もともとグローバルをやらない選択肢はないと考えていました。ただ、当時は日本で始めたばかりで、具体的なストーリーは描けていませんでした。一緒に台湾に行ってイメージができたのは大きかったですね。実際、あの出張がきっかけで現在、台湾、タイ、ベトナムでも事業展開しています。

井出さんは何もしていないと言いますが、IPOに向けた証券会社や東証とのやりとりでも支えてもらったし、UTECのHRチームに採用の実務でもサポートしてもらいました。マーケティングやファイナンス、コーポレートまで、全般的な知識を持って助言いただけたのは心強かったです。
井出:
IPOは当初のプラン通り2019年12月。予定通りにいったのも、経営陣がテクノロジーとプロタクトの両方を分かっていたからでしょう。AI-OCRをテクノロジー視点で見ると、どうしても認識率競争になりがちです。しかし渡久地さんは認識の精度を高めることに加えて、個人情報が漏洩しない仕組みを開発して特許化した。顧客から見ると、どんなに認識率が高くてもセキュリティが担保されていないプロダクトは使えません。そういったビジネスセンスをお持ちだったからこそ、急成長できたのではないでしょうか。優秀な経営チームが牽引するベンチャーにはVCはあまり出る幕が無いんです(笑)

FINAL SECTION : SaaS企業から、AIプラットフォーマーへ

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

SaaS企業から、
AIプラットフォーマーへ

AI-OCRは、AIを世界に普及させるきっかけの一つにすぎません。同社が描いているビジョンは「AI inside X」、つまりあらゆる人や物にAIを行き渡らせること。その手段として、AIの運用を実現するエッジコンピュータ「AI inside Cube」や、ノーコードでAIを開発できる「Learning Center」を新たに展開しています。

渡久地:
私たちが目指しているのはSaaS企業ではなく、AIプラットフォーマーです。まずはSaaSで簡単にAIを開発・運用できる環境を整えます。そして次にマーケットプレイスをつくって、開発したAIを他の人にシェアできる場を提供します。「AI inside Cube」や「Learning Center」は、誰でもAIを作ったり使ったりできる世界を実現するためのプロダクトです。

実はこの構想は、IPOの前にUTECにも伝えていました。「AI inside Cube」はハードウェアですから、ソフトウェアよりリスクがあります。普通なら、投資家は「いまはSaaSに集中して」とブレーキをかけるでしょう。しかし、井出さんは反対しないで取締役会で承認してくださった。そこも大変心強かったです。
井出:
SaaSがプロダクトとしてしっかりできる前にハードウェアにいくと危険ですが、すでにSaaSの完成度が高くて、アルゴリズムをハードウェアにポーティングさせればいいという状況でしたからね。マーケットプレイスの構想も、むしろエクイティストーリーとして素晴らしいと感じました。
渡久地:
SaaSでいまから世界一になるのは難しいかもしれません。しかし、AIプラットフォーマーなら自分たちで市場をつくれます。AIがあたりまえに社会に浸透している世界を実現するために、今後さらにアクセルを踏んでいきたいと思います。