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04 STORY ACSL

“生き物”のようなドローンで
人口減少時代の社会を支える。

株式会社自律制御システム研究所(ACSL) 代表取締役社長 HIROAKI Ohta, Ph.D

PROLOGUE

ドローンを目にする機会は日に日に増えています。ただ、その多くはコンシューマー向け。人口が減少していく日本社会においては、物流やインフラ保守、防災など、産業にドローンを活用して人手不足を補いつつ、さらに生産性の高い社会を構築することが期待されています。しかし、人がドローンを操縦していては人手不足の解消につながりません。いま求められているのは、ドローンがまるで生き物のように自分で考えて動く自律制御技術です。株式会社自律制御システム研究所(ACSL)は、モデルベースの先端飛行制御、画像処理(目)による環境認識をもったナビゲーション機能などの高度なアルゴリズムを用いた自律制御システムを開発、そして、それを搭載するドローンの最終製品の形で提供しています。代表取締役社長の太田裕朗氏に、ドローンがつくる未来とUTECのサポートについてうかがいました。

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SECTION01 : ドローンの会社だとは思っていない

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SECTION01

ドローンの会社だとは思っていない

ACSLはドローンのメーカーですが、注目したいのはハードウェアではなくソフトウェア、つまりドローンを動かす頭脳の技術です。自社開発しているオートパイロットフライトコントローラで、離陸から着陸まで一貫した完全自律飛行を実現。人の手を介さず飛行することで、ソサエティー5.0の実現を目指します。

太田:
私たちの強みは、ドローンを制御するソフトウェアにあります。最終的にはモーターや躯体をつけてドローンの完成形を提供しますが、コアな頭脳であるソフトウェアであり、それを100%自前で持つ会社は日本ではACSLだけです。ビジネスとして考えても、高度なソフトウエアが提供価値のプレミアムを生みだします。

自律飛行すると言われているドローンの多くは、GPSを受けながら飛行します。一方、弊社のドローンはGPSがなくても飛行できる機能も有します。センサー、特に目の機能=画像処理で周囲の空間を認識して、ソフトで判断しながら飛行します。いわば目と脳みそがついた生き物のように、自分で考えて飛ぶことができるドローンです。

完全自律飛行ができれば、山間部でGPSが届きにくいところにも、画像処理を併用することで、高精度に位置をコントロールして、目標地点に正確に荷物をデリバリーできます。また、真っ暗で全くGPSが入らないトンネルや、複雑な構造のプラントや橋梁に飛ばして、インフラの点検をすることも可能です。他にもさまざまな活用シーンが考えられますが、現場で運用するには用途に合わせてドローンのつくり込みが必要です。その点、私たちはソフトを自社開発していて、現場に合わせたカスタマイズができます。

単に動かすだけなら、人が画像を見てラジコンのようにドローンを操縦するというやり方もありますよ。しかし、ドローンを飛ばすのに人を張りつけないといけないとしたら、コスト削減や人手不足の解消につながりません。完全自律飛行で無人化を実現してこそ、ドローンは価値を発揮するのです。

その意味で、私自身はACSLをドローンの会社だとは思っていません。弊社のスローガンは、「技術を通じて、もっと人々を大切なことに」。ドローンに限らず機械に単純作業を任せれば、人がもっと有益で新しいことに集中できます。自律制御技術を普及させて、そのような社会を実現していきたいですね。

SECTION02 : 信頼する人からのオファーだから
引き受けた

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SECTION02

信頼する人からのオファーだから
引き受けた

ACSLは千葉大発のベンチャーです。しかし、創業当初はアカデミアの色が濃く、経営ノウハウを持った人材は不在。シリーズA で同社への投資を決めたUTECは、アカデミアとビジネスつなぐ人材として現社長の太田裕朗氏をACSLに紹介します。太田氏は学者から戦略コンサルティングファームに転職した異色の経歴の持ち主。「経営者になるつもりはなかった」という太田氏は、なぜ参画を決めたのでしょうか。

太田:
UTECでACSLを担当していた投資家は、取締役パートナーの山本哲也さんと坂本教晃さんです。シリーズAは2016年3月。私の参画前なので細かい経緯は把握していませんが、いくつかの大手企業がドローン活用に本腰を入れ始める動きを見せて、UTECとしてもドローンは外せないと考えたのでしょう。もちろんドローンなら何でもいいというわけではない。本物のコア技術を持っていた弊社に目をつけたのは、さすがディープテックに強いVCという気がします。

私はシリーズAの直後、坂本さんに声を掛けられてCOOとして参画しました。私はもともと物理や材料分野の学者で、京大の助手を務めたり、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二先生のもとで研究をしていました。論文も100本近く書きましたが、ビジネスにも関心が湧いて、マッキンゼーに転職。そこで出会った同期が坂本さんでした。

坂本さんは一足先に転職して、UTECで活躍していました。たまたま飲み会に呼び出されて「こういう会社がある。太田さんに向いていると思う」と熱意をもって誘われたとき、「わかった。いくよ」と自然と即答しました。じつは、そのときは事業の詳細をまだ把握していなかったんです。でも、信頼している人から「向いている」と言われたら、断る理由がないでしょう?

最初に事業を見たときの印象は、「この会社はドローン業界のAppleになりえる」ということ。Appleが強いのは、iPhoneの設計、部品選定、なによりユーザーインターフェースを決定づけるソフトを握っているハードウエアメーカーからです。ハードは安く作れる競合に負けるおそれがありますが、設計やソフトは簡単に追いつかれません。ソフト開発は長い下積み期間が必要ですが、この会社は大学の10年以上にわたる研究成果としてその蓄積がありました。独自の自律制御技術を持つACSLなら、ドローン業界でまさにオンリーワンの会社になれると思いました。

NEXT

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PROBLEM

コンサルタントとしてキャリアを積んでビジネスに精通していた太田氏ですが、役員として経営を行うのは初めての経験。事業を軌道に乗せるまでには、UTECの有形無形のサポートがあったといいます。

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太田:
最初は大学の研究室そのままに近い会社でしたから、正直言って未整備のものが多かったです。たとえば機体製品は一応あるものの、権利関係、ソフトのデバッグ、設計情報の明文化、サプライヤーマネジメントなども未整理。そのままでは品質や長期供給責任をきちんともって安心して販売できない可能性もありましたので、最初に調達した7億円のうち、そのほとんどを使って、大赤字の中、機体を作り直しました。

その会議には、山本さんは毎週出席していました。じつは山本さんはオクスフォード大の物理学部物理学科の出身。私も山本さんも、“いちおう”、頭がベーシックサイエンスでできているから、話がとてもよく合いました。二人ともドローンについては初学者なのですが、理解を深めていきました。最初の1年は山本さんが社外取締役で入ってくれて、二人三脚で経営。社外ですが、山本さんは週に4日は千葉(ACSL本社)に来ていたんじゃないかな。
創業社長は生粋の学者です。事業サイドから何か提案するときは、こちらも理論をしっかり理解していないと会話になりません。山本さんは一緒に勉強してくれて、他の大学の研究室に2人で話を聞きに行ってくれたりもしました。まさにハンズオンでしたね。

もちろん坂本さんも同様にハンズオンでサポートしてくれました。いくら私にアカデミアとビシネスのバックグラウンドがあると言っても、経営の能力は穴だらけです。ガバナンスの規程を作るとか、IPOを見据えて証券会社を選ぶとか、完全にド素人のところも多々ありました。坂本さんも山本さんも引き出しが豊富で、私が自分に足りていないところを相談すると、プロフェッショナルをアレンジしてくれるなどして武器を与えてくれた。おかげで徒手空拳のまま戦わずに済みました。

とくに心強かったのは資金調達ですね。私が参画して2年後、ACSLはシリーズBの資金調達を行いました。シリーズBで他のVCに最初のコンタクトを取ったのはUTECです。UTECが持つ投資家のネットワークのおかげで適切なタイミングで資金調達して、研究開発を続けることができました。

SECTION03 : 大きな絵を描いて経営判断する

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SECTION03

大きな絵を描いて経営判断する

紹介されたのは、直接的に役立つ人や組織だけではありませんでした。UTECのイベントを通して知り合った起業家たちからは大いに刺激を受けたそうです。

太田:
私はもともと学者ですから、経営者という職業に特別な固執や思い入れはありません。社長を務めるいまも、経営者というより職人たちを束ねる大工の棟梁に近い感覚で経営にあたっています。会社の企価価値を高めることが究極かつ唯一のミッションだと思っています。ただ、そもそも私には大工の棟梁的な経験すらなかった。その意味では、他の経営者の方々とのネットワーキングは、とても重要です。UTECのイベントなどで先輩たちとお話しして学んだことは、私のメンタリティやマインドセットを形成するうえで非常に役に立っています。
マインド面では、UTECの代表取締役社長である郷治友孝さんからの学びも大きかったですね。ある経営判断について、郷治さんに話を聞いてもらったことがありました。そのとき問われたのは、「それは徳のある判断なのか」ということ。徳を定義するのは困難ですが、少なくとも悪賢い発想、1年後の目先の利益を追うのは、徳のある行為とはいえません。いつも、郷治さんからは、「太田さんにはもっと長期的な視点で考えてほしい。10年後も大きくなっている産業を目指して」と叱咤激励されました。UTECの支えと激励があって大きな絵を描いて判断することを心がけています。IPOがまさにスタート地点であると思っていますし、さらなる成長を目指しています。

FINAL SECTION : いまはベンチャーの大航海時代

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

いまはベンチャーの大航海時代

太田氏に託された役割の一つは、優秀な人材をスカウトして組織の体制をつくることでした。参画2年目には、現在のCOO、CTO、CFOを外部から招へい。IPOを目指す体制が整い、2018年12月に東証マザーズに上場しました。

太田:
現在のCxO4名が揃って技術の方向性も固まったタイミングで、UTECとの距離感も変わってきました。それまではハンズオンで手厚く支援してくれましたが、2年目以降は適度な距離感を保ってくれるようになったのです。これは組織が成長するために必要なこと。IPOするまでずっと手取り足取りでやっていたら、IPOで手を離したときに混乱して倒れてしまうかもしれない。そうならないように、様子を見ながら私たちを自立させようとしていたのでしょう。

おかげさまでACSLは2018年12月にIPOしました。エグジット後も、UTECからは株主としていろいろ支援いただいています。個人的には、いまもUTECのイベントに行くのが楽しみ。郷治さんとも時々お会いして助言をいただいています。

私たちがインドを目指して航海したコロンブスなら、UTECはコロンブスを支援したスペインのイザベル女王です。イザベル女王は沈没のリスクを取ってコロンブスに資金援助しましたが、UTECもまだ海のものとも山のものともわからないシード段階の私たちに投資をしてくれた。おかげでACSLは優秀なメンバーを集めて航海に乗り出すことができました。

インドを目指していたコロンブスは、期せずして新大陸を発見しました。私たちも当初の事業戦略にこだわらずにソフトウェアに注力したことで、業界のフロンティアを開拓することができました。もちろん私たちの他にも、フロンティア精神を持っているベンチャーは数多くあります。UTECには、これからもシード段階のスタートアップに積極的に投資をしてもらい、新大陸発見の手伝いをしてもらえればいいなと思います。