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VP INTERVIEW

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PROLOGUE

画像認識AIを軸にスマートシティ、サイネージ広告、アパレル需要予測の事業を展開するニューラルポケット株式会社。2018年にジョインして、現在CFOを務める染原友博氏は、UTECでベンチャーパートナーを務めていた時期があります。もともと公認会計士として活躍していた染原さんは、なぜベンチャーの世界に飛び込んだのか。VCの立場からValue upする側とそれを受ける側の両方を知る立場から、ベンチャーパートナーについて語ってもらいました。

SECTION 1

一橋大学の在学中に公認会計士の資格を取得した染原氏。会計士の一般的なキャリアパスから外れて、フリーランスでベンチャー企業に関わるようになった経緯をうかがいました。

- 染原さんのバックグラウンドを教えてください。

もともとは公認会計士でした。私は北海道出身で、大学に入学した1997年に拓銀が破綻しました。このまま卒業して就職しても、先々どうなるのかわからない。そう考えて資格を取りました。父親が社労士で、士業になじみがあったことも影響したかもしれません。

資格取得後は、公認会計士受験予備校の講師を経て3年間監査法人で働きました。せっかく公認会計士の資格を取ったのだから監査の実務を経験してみたい、また、短期間で幅広い経験を得たいと思い、中堅の監査法人に入所しました。経験させていただく中でさまざまな発見がありましたが、やはり外の世界に出たくなり、3年で転職しました。

次は大手証券会社でM&Aのアドバイザリーをやりました。ここでベンチャーと接点があればよかったのですが、私が勤務していたのは2006年から2012年まで。ライブドアショックでベンチャーの元気がなくなっていた時期なので、アサインされた案件でベンチャー絡みのものは少なかったですね。

- ベンチャーに関心を持つようになったのは?

公認会計士として独立してからです。証券会社でもさまざまな経験をさせてもらえましたが、もともと大きな組織に属してずっとやっていくつもりはなかった。そこで退職して、フリーランス的にベンチャー企業の投資案件のデューデリジェンンスなどをやるようになりました。

転機になったのは、ある大手金融会社のお仕事です。私が独立した2012年は、ベンチャーファイナンスが徐々に盛り上がり始めていた時期です。たまたま私の友人が勤めていた大手金融会社もCVC事業に乗り出すことになり、そのお手伝いをしたのです。

具体的には、アーリーステージのスタートアップにインタビューしに行ったり、事業計画をチェックしたり。監査法人や証券会社に勤務していたころは、職業的にも時代的にも、すでに成熟して伸び悩んでいる会社ばかり見てきました。一方、CVC事業のお手伝いでは、伸びている会社が相手です。急成長する会社を間近で見て、単純に「ベンチャーっておもしろいな」と感じたことを覚えています。

SECTION 2

CVC事業に関わる中でベンチャーへの関心が高まり、ベンチャーの中に身を置くことを決断。そこからUTECとの縁がつながっていきます。

- UTECのベンチャーパートナーになった経緯は?

フリーランスとしてさまざまな案件を手掛けるうちにベンチャーへの興味が膨らみ、2015年、東大発のスタートアップである株式会社ナウキャストに入社しました。フルコミットではありませんでしたが、私は1番目の社員で、オフィスのセットアップからファイナンスまでとにかく何でもやりました。最終的にはCFOの肩書きをもらって、経営にも携わりました。じつはナウキャストに投資をしていたのがUTECです。そのつながりで、UTEC代表取締役社長の郷治友孝さんや取締役パートナーの坂本教晃さんと知り合いました。

2016年、ナウキャストは別の投資先に統合され、私はそのタイミングで退職しました。正直に明かすと、退職直前は仕事があまりにハードで、「スタートアップは、もう懲り懲り」と思っていました。でも、いったん離れて外に出ると、またベンチャーの中に入って思い切りやりたくなってくる。少しマゾっ気があるのかもしれませんね(笑)

ナウキャスト時代は、他の仕事もフリーランスとしてやっていました。しかし、こんどはフルコミットで自分のすべてをベンチャーに注ぎ込んでみたい。そうした思いが強くなり、雇ってくれるスタートアップを探し始めました。その流れの中でUTECの坂本さんに「投資先で、どこか面白いところはありませんか」と声をかけたところ、「うちでベンチャーパートナーをやりませんか」と逆オファーを受けたのです。

提案を受けたのは2017年の秋でした。UTECは翌年1月に4号ファンドの組成を予定していたので、ベンチャーパートナーの人材を探していたようです。予想外の提案でしたが、投資先をハンズオンで支援するUTECならおもしろい仕事ができると思ってお引き受けすることにしました。

- UTECでは、どのような案件を手がけましたか。

ベンチャーパートナーとして5社のお手伝いをさせてもらいました。どの会社もおもしろくて、刺激に満ち溢れた案件でした。

役割は大きく分けて二つです。まず一つは、会社の根幹をなすバックオフィス立ち上げのお手伝いです。UTECの投資先はシードやアーリーのステージで、ファイナンスやアドミなどのバックオフィス部門がまだ整っていないことがほとんど。そこで人の採用なども含めてバックオフィス部門の立ち上げを行います。

同じことはナウキャストでもやりました。ただ、投資先の社長によって、バックオフィスに対する距離感はそれぞれ。いまは管理よりR&Dにリソースを使いたい社長もいれば、IPOを踏まえて早めに整えたい社長もいます。そうした考えを汲み取りながらも、将来的なリスクを予測しつつ、致命的なことにならないようにお手伝いすることを心がけていました。

派手さはないのですが、やりがいはありましたよ。バックオフィス部門を立ち上げた後、投資先から「うちの会社にきてほしい」と言われたこともありました。信頼されているのだと思ってうれしかったですね。

もう一つは、資金調達のお手伝いです。こちらは事業を直接的に左右するお手伝いで、責任も重大です。資金調達は相手方がいるため不確実性があって、いつも思うようにいくわけではありません。でも、そのぶんディールをまとめられたときは格別な思いがしますね。

SECTION 3

染原氏は2018年、UTECのベンチャーパートナーから、AIベンチャーのニューラルポケットのCFOに転身します。ベンチャーを外からサポートしてきた経験は、中に入ったときどう活きるのでしょうか。

- 再びベンチャー企業にジョインした理由を教えてください。

ニューラルポケットは高度な画像認識技術を持つベンチャーです。UTECが2018年8月にシリーズAで出資をして、そのタイミングで坂本さんに紹介してもらいました。ニューラルポケットは常勤でCFOができる人材を探していて、私はもともとベンチャーの仕事をフルコミットでやりたかった。その意味では相思相愛ですね。

決め手になったのは人です。優秀なエンジニアが集まっているだけあって技術は素晴らしいし、経営陣はビジネスサイドの経験が豊富で、会社として技術とビジネスがうまく融合しています。それがこの会社の競争力の源泉だと思いますが、私としては技術やビジネスモデル以前に経営陣とフィーリングがあったことが大きかったです。

- UTECでのベンチャーパートナーの経験は、
いまのお仕事に活きていますか?

そうですね。ベンチャーパートナーとして他のベンチャーに関わって、他社のプラクティスが知見として蓄積されているのは大きいですね。いま自社で課題にぶつかったときも、「あの会社ではこうだったな」と経験を活かすことができますから。

もう一つ、VCの目線で自社を見られる利点も見逃せません。厳密にいうと、ベンチャーパートナーはキャピタリストではありません。しかし、UTECの一員としてお仕事をする中でキャピタリストの方と非常に密にコミュニケーションを取り、投資家の視点が自然に身につきました。いまCFOとして投資家のみなさんとコミュニケーションする機会が多いのですが、投資家のものの見方を知っていることは、相手と信頼関係を築くうえで助けになっています。

ベンチャーパートナーをしていたのは1年弱で、けっして長くはありません。しかし、UTECでの経験は確実にいまの仕事に役立っています。ニューラルポケットを成長させることは、UTECへの恩返しの一つ。「投資してよかった」と思ってもらえる会社にしていくために今後も頑張りたいと思います。