03 STORY tella UTEC

がん治療の新しい“武器”をつくる

tella株式会社
代表取締役
Yuichiro Yazaki
UTEC
マネージングパートナー
Tomotaka Goji

PROLOGUE

2014年における「がん」の死亡者数は約37万人。この数は心疾患約20万人を大きく引き離し、日本の死因第1位です。 この日本一の“殺し屋”がんに新しい武器「がん免疫療法」で挑むのが、バイオベンチャー「テラ」。数あるがんワクチンの中でも、免疫細胞の“司令塔”を培養し、ワクチンとして注射する「樹状細胞ワクチン療法」がテラの特徴。現在、世界トップクラスの症例数を誇る治療を提供し、これからのがん治療を支える再生医療として、医学界から注目されています。 同社は2009年3月にジャスダック証券取引所「NEO」へ上場しています。創業者である代表取締役社長、矢﨑雄一郎氏は元外科医。医師、そしてバイオベンチャー起業家として、どのようにがん治療と向き合い、ビジネスを成功させてきたのか。創業期を共にしたUTEC代表取締役社長、郷治友孝と語ります。

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NEXT : 免疫の“司令塔”を増やしてがんを叩く 

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SECTION01

免疫の“司令塔”を増やして
がんを叩く

矢﨑氏によれば人間の体内には、毎日数千個ものがん細胞が発生しているといいます。通常は、体内の免疫機能がこれらのがん細胞を攻撃し、排除することで私たちは健康を保っています。
しかし免疫機能に何らかの問題が生じ、見逃されたがん細胞は増殖を繰り返して大きくなり、がんを発症します。
テラのがん免疫療法は、この免疫機能の司令塔である「樹状細胞」を体外で培養して投与することで、がんを退治する治療法を行っています。

矢崎:
体内にがんが発生すると、免疫機能における“兵隊役”「リンパ球」が、がんを異物として排除しようとします。その際、がん細胞にある目印「抗原」をめがけて攻撃をしかけます。
このリンパ球に対して攻撃目標である抗原を教えるのが、“司令塔役”の「樹状細胞」なのです。私たちのがん免疫療法は、この樹状細胞を体外で培養して投与する、つまり体内の司令塔を増やすことによってがんを叩く治療法を提供するものです。患者自身の細胞からつくるため、副作用の少ない治療が可能です。


免疫機能の司令塔を増やし、強化することでがんを叩く。契約医療機関における、テラの樹状細胞ワクチン療法の累計症例数は約9,800症例(2015年9月末現在)に達しており、この数は同療法の中では世界トップクラスだといいます。

免疫機能の司令塔を増やし、強化することでがんを叩く。契約医療機関における、テラの樹状細胞ワクチン療法の累計症例数は約9,800症例(2015年9月末現在)に達しており、この数は同療法の中では世界トップクラスだといいます。

NEXT : ふたりの“駆け出し” 

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SECTION02

ふたりの“駆け出し”

矢﨑氏の大学卒業後のキャリアは外科医でした。しかし副作用の強い抗がん剤を服用し、闘病し、それでも報われないがん患者を見て「自分なりの、もっと違った治療ができないだろうか」という気持ちを胸に、退職を決意します。尊敬していた叔父夫婦ががんで亡くなったことも、悲しいきっかけとなりました。
その後、矢﨑氏は東京大学医科学研究所で樹状細胞ワクチン療法のことを知り、2004年にこの研究を事業化しようと思い立ったのが、テラを起業したきっかけになりました。後にテラへ投資することになる郷治とは、起業する中での資金調達で出会います。そしてふたりは、同じ“駆け出し”でもありました。

矢崎:
私は当時、医師を辞めてからサラリーマンとしてバイオベンチャーにいたことはありましたが、起業や経営は初めてでした。いろいろと勉強していまして、郷治さんと出会ったのは、ちょうど『投資ファンドとベンチャーキャピタルに騙されるな―ベンチャーキャピタリストが書いた真実』という本を読んでいた頃でしたね。なので、最初はすごく警戒していまして(笑)。
郷治:
一方の私にとっては、テラは最初の投資先でした。2004年の5月、最初にお会いした時は、まだUTECができた翌月でしたね(笑)。ベンチャーキャピタルといってもファンドは一円もなく、自分が資金調達を始めたばかりの頃でした。つまり私も駆け出しで、ド素人のキャピタリストだったわけです。ただ、矢﨑さんの話を聞いて、血中の単球から取り出した樹状細胞をつかって免疫をコントロールしがんを叩く、という手法には感銘を受けました。
最初の頃は本当に手探りで、毎週何度かお会いして、一緒に病院にチラシを持って営業しに行ったりしていましたね。
矢崎:
テラのことが取り上げられた『サンデー毎日』を大量に買って、載っているページをわざわざ折って、病院に置きに行ったり。とにかくやれることは何でもやっていましたね。
郷治:
テラの成功は、初期から創薬ではなく「医療事業」として成り立たせようとしたところにあるとも思います。当時はまだテラのような事業は、薬事法に基づいた事業として成り立たせるのは、非常に難しかった。
そこでお互いに薬事法や医療法、厚生省の通達などを調べながら、医療事業として成立させるロジックをつくっていきましたね。
なによりも大切なことは、この治療法を届ける患者さんに喜んでいただくこと、希望になることです。法律的にも期待に応えられるように、時間をかけて取り組んでいきました。

NEXT

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PROBLEM

テラの大きな特徴のひとつに、東京大学医科学研究所の高度な培養技術を駆使し、患者の血液から作製する樹状細胞があります。しかし当初は、まだまだこの技術を十分に活かした治療に結びつけるまでには課題がありました。

NEXT : 課題解決のキーとなる「WT1ペプチド」

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SECTION03

課題解決のキーとなる
「WT1ペプチド」

矢崎:
郷治さんと出会った頃は、私たちもまだ“半人前”でした。
樹状細胞を作製する際は、まず特殊な採血方法によって患者の血液から「単球」という細胞を取り出し「成熟樹状細胞」に培養します。
次に、がんの攻撃目標である抗原を、樹状細胞に記憶させます。樹状細胞がリンパ球に対して攻撃目標である抗原を教え、活性化できるようにしてやるわけです。
しかし当時の手法は、患者からがん細胞を取り出して樹状細胞に記憶させるというもの。手術を行わなければならなかったため、患者の負担は大きく入手は難しかった。

患者の中には末期がんを患っている人もいることから、手術は大きな負担になります。
手術に代わる方法はないものかと考えた矢﨑氏は、とある出会いから、大阪大学大学院医学系研究科の杉山治夫教授の技術と出会います。

矢崎:
この課題を解決できる鍵が、杉山先生の研究である「WT1ペプチド」でした。WT1は、がん細胞が存在するために必要な、いわば“土台”となるタンパク質。その一部であるWT1ペプチドを樹状細胞に攻撃目標として記憶させ、患者に戻せば、手術をすることなく、体内にがんの土台を叩くための司令塔を増やすことができ、がんが治療されるわけです。
私たちは杉山先生に頼み込んで、このWT1ペプチドの独占実施権を取得することで、ようやく“一人前”になれたのです。

手術してがん細胞を入手しなくてもよくなったことで、その後、以前ならば体調面から断らざるを得ない患者にも治療をすることができるようになり、症例数も伸びていったといいます。
その治療効果は、まさに革命的でした。

矢崎:
ある時、「横紋筋肉腫」という非常に特殊ながんに苦しんでおられる患者に会いしました。半年に1回がんができて、そのたびに手術を繰り返す、非常につらい病状に苦しんでおられました。そこでテラの樹状細胞ワクチン療法を行ったところ、がんの発生頻度を1年半〜2年に抑えることに成功しました。大変喜んでいただけて、自分たちが、すごくいい治療技術を提供していることを実感することができました。
郷治:
私はそんな矢﨑さんと間近で並走しながら、起業後に自分の会社に必要な技術を手に入れてゆくことができるのも、起業家のたくましさゆえであり、そのような心構えは経営において必要な能力の一つだということを学びました。

こうしたプロセスの中で、テラは2009年3月にジャスダック証券取引所「NEO」への上場も果たしました。

FINAL SECTION : 世界のがん治療を変える創薬へ

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

世界のがん治療を変える創薬へ

矢崎:
がん免疫療法は今、手術や放射線治療、抗がん剤に次ぐ「第四の武器」と言われていますが、将来的にはこの武器の“番狂わせ”が起こってくるのかもしれません。つまり第一の、第二の武器としてがんワクチンが普及する可能性も期待されているのです。
私たちも確実に症例数を伸ばし、確かな手応えを感じています。それに私が起業した2004年、治験を行っていた2000年頃は再生医療や細胞治療は、まだまだ認知度が低く、事業化のハードルは高かった。しかしその状況もここ数年の法改正などの動きで、ずいぶん変わってきました。

2014年11月には「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行され、旧薬事法は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」へ改正されました。そして新たなカテゴリーとして「再生医療等製品」も生まれました。
こうした時代の流れを味方につけ、テラの技術を医薬品として世界へ広めていくことを矢﨑氏は目指しているといいます。


矢崎:
今、もっとも症例数が多いのはすい臓がんです。すい臓がんは、仮に発見されても約1年ほどで亡くなられる方も多く、治療も難しいため、希望患者数が多いがんでした。そして私たちの樹状細胞ワクチンで治療することによって、延命が可能であることがデータ的にも明らかになってきました。今はそのデータをもとに、治験の届出の準備を進めています。
今はまだ年間数百名の患者さんの治療しかできませんが、もしこの技術が医薬品として認められれば、すい臓がんで亡くなっている年間3万人の方々へ治療を広げることが可能になります。

医療行為としていち早く患者さんに届ける仕組みを維持しながら、ぜひ医薬品として、世界へも展開していきたいと思っています。

テラの2014年の売上は18億6500万円。「ふたりの“駆け出し”」で始まったテラの樹状細胞ワクチン療法は、まさに今、世界のがんを治療する、大きな力になりつつあるのです。

矢崎:
UTECが私たちを育てていただいた、と私は本当に思っていますよ。
郷治:
いえいえ、我々UTECもテラさんに育てていただいたと思っています。お会いした時はまだ我々も、“単球”でしたから(笑)。
矢崎:
お互い、成熟できてよかったですね。樹状細胞は単球から培養する過程で「未熟樹状細胞」を経て成熟樹状細胞になりますが、私たちも未熟なままじゃなくて本当に良かった(笑)。

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