FROM ENTREPRENEURS

04 STORY UTEC PROVI
GATE
Toshiya
Sakata

世界中の人に健康な人生を。
「知覚拡張センサ」で世の中を変える。

UTEC パートナー Naonori Kurokawa 株式会社PROVIGATE
代表取締役社長
Koshin Sekimizu
東京大学大学院
工学系研究科
マテリアル工学専攻 准教授
Toshiya Sakata

PROLOGUE

健康に一生を送ることは、すべての人々の願いです。そのためには、心拍・呼吸・血圧・体温など各種のバイタルに加え、体内の様々な生体分子の状態を読み取り、意味づけをし、症状が現れる前や重症化する前に改善に結び付けていくことが求められます。しかし、多くの場合「身体の発するSOS信号」は生身の体では知覚することはできません。もちろん、今日の技術でも簡便かつ迅速に計測できるものもありますが、その数は限られている上に、特に生体分子の計測においては侵襲的な血液検査が必要である場合がほとんどで、日常的なモニタリングは殆どなされていません。体の中は未利用情報の宝庫ということが出来るでしょう。この未利用情報源に、「界面電気生化学」の技術で挑もうというのがPROVIGATEが開発する「知覚拡張」センサです。 「知覚拡張」とは生身の体では感じることのできない体内の信号をセンシング技術によって知覚させることです。PROVIGATEは健康状態をリアルタイムに「感じ」させる知覚拡張センサの普及によって、人々が健康の維持増進に向けて行動することが当たり前の社会の実現を目指しています。 世界最高のバイオセンシング事業体を創ることをビジョンに掲げる同社の設立の経緯と今後の展開について、基本技術を創出した東京大学大学院工学系研究科の坂田利弥准教授とPh.Dを持つ元経営コンサルタントであり現在、代表取締役社長を務める関水康伸氏が、UTECパートナーの黒川尚徳と共に語ります。

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SECTION01 : 半導体バイオセンサが実現する
新たな生体計測の世界

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SECTION01

半導体バイオセンサが実現する
新たな生体計測の世界

人体の状態をモニタリングする手法としては、いわゆるバイタルすなわち体温や脈拍、呼吸と血圧などの測定に加えて、バイオセンサによる計測があります。バイオセンサは、酵素や抗体などの生体物質が持つ特異性を利用して、対象物質の検出や計測を行うセンサです。糖尿病患者が日常的に使う血糖計はその一種であり、指先から採取した血液を酵素に反応させて血糖値を測定します。
糖尿病患者は世界に約4億人、日本国内だけでも1000万人と推定されます。患者はインスリン注射のタイミングを管理するため、血糖値を常に自己測定しなければなりません。現状は指に針を刺す侵襲的な方法により採血を行い、血糖計には酵素が使われています。こうした従来のバイオセンサの世界を覆すのが、半導体バイオセンサです。

坂田:
敢えて単純化して申し上げれば、現在普及している検体検査法は、大型・煩雑・高価なものが中心です。ターゲットの特異的認識に酵素や抗体などの生体物質を用い、定量には例えば光学系を必要とするなど、技術的・原理的な限界が背景にあります。一方で我々が開発した半導体バイオセンサは、特異的認識と定量を電極界面上にてワンステップで行うことが特長です。ワンステップかつオンチップなため、様々な検査を劇的に小型・簡便・安価にできるポテンシャルを秘めています。そのメカニズムを簡単に説明すると、次のようになります。

センサの肝はセンサ電極上の界面設計に有ります。ターゲット分子が、電極界面に特異的な吸着や反応をしたときに、それに応じて界面の電気的環境が変化するように設計してやります。電気的変化は、電極につながる半導体によって量的に捉えられるので、情報として取り出すことが出来ます。例えば、界面をグルコースに合わせて設計すれば、検体中のグルコース量を電気的に直接測定することが出来ます。
界面の設計次第では従来のセンサをはるかに凌駕する高感度化や小型化が可能です。例えば、涙などは生体物質が各種含まれることが知られており、そのバイオマーカーとしての利用が検討されてきましたが、採取できる検体量が少なく且つ生体物質の濃度が薄いため従来のバイオセンサでは安定した測定ができませんでした。我々の技術を用いれば、微量の涙でも、そこに含まれる低濃度の生体物質を定量できるはずです。実際にいくつかのターゲットについてはデバイスの開発が進んでいます。
バイオセンシング技術は、「ターゲット」「界面」「検出デバイス」の3つの要素から構成されます。「ターゲット」とは、計測対象となる糖やタンパク質、DNAなどの生体分子や細胞などです。これらのターゲットを特異的に捉えるのが「界面」です。そしてターゲットを捉えた界面から情報を正しく電気的に取り出す装置が「検出デバイス」となります。

坂田:
半導体バイオセンサの応用で、例えば血糖値を涙で簡便にモニタリングできるようになれば、世界が変わる可能性があります。糖尿病予備群の人たちを想定すると、食事の際の血糖値と糖質摂取量、食後の運動量等をリアルタイムに分析し、レコメンドすることによって、血糖値を適正にコントロールしながら食事や運動を楽しめるようになるかもしれません。涙による非侵襲測定を実現して、糖尿病を発症する人を大きく減らすことに貢献できれば素晴らしいなと考えています。
黒川:
坂田先生との出会いは東大の発明届を通してでした。物理学の一つである半導体の技術を使って細胞やDNAといった生体物質を分析するユニークな研究だなぁと思い研究室を訪問したのがきっかけでした。お話しを伺うと、先生の発明の一部は既に次世代シーケンサーに活用され市販されていると。世界トップクラスのサイエンスと産業化の実績を持つこの先生となら、グローバル課題を解決し人々を笑顔に変えるベンチャー企業が創れるのではと思いました。そこから定期的にお会いして、iPS細胞評価センサ、生殖細胞センサ、グルコースセンサなどの製品応用を議論したり、事業化の為の競争的資金申請書を一緒に書いたりしました。

PROBLEM
坂田准教授が開発した半導体バイオセンサは、世界トップクラスの突き抜けた技術です。その実用化に向けて坂田准教授は、UTECをパートナーとして「非侵襲型診断医療に向けた半導体バイオセンシングの実用開発研究(大学発新産業創出プログラム(START))」を2012年から進めてきました。目指したのは、糖尿病患者の血糖値診断時の負担軽減のために、半導体原理に基づく採血フリーのグルコースセンサの開発と、その事業化です。そこに2014年、運命の出会いが起こりました。UVPP(UTEC Venture Partner Program)を通じた関水氏の参画です。

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SECTION02

糖尿病からその先へ
世界最高のバイオセンシング事業体を創る

関水:
私は以前経営コンサルティングファームに務めておりまして、その際にはバイオベンチャーや体外診断薬・医療機器の新規事業プロジェクトも幾つかご支援する機会に恵まれました。特に体外診断薬の世界は過去20年間ほとんどイノベーションもなく、薬に比べれば市場規模もはるかに小さく、後発が成功する可能性は極めて低いこともプロジェクトを通じて骨身に染みてよく承知しておりました。ですからUVPPに参加していた前職の先輩から「血糖値測定ベンチャーで経営者を探している」と初めに連絡をもらったときには、失礼ながら「いやこれ、筋悪案件ですよ。」と申し上げました(笑)。
ところが坂田先生の半導体バイオセンサの技術の詳細を聞いてみると「これは血糖値測定だけの技術ではないな」と。その本質は「生体物質を界面で電気的に見る」ことであり、小型化・高感度化・低コスト化が可能なことにあります。一部の患者の皆様だけではなく、万人のための日常的な生体センシングを実現するものです。その技術はまさに、これから起きようとするシンギュラリティーのミッシングピースを埋める可能性がある技術と言えるわけです。

2014年10月、UTECの黒川を交えて坂田准教授と話をした関水氏は、その年末に当時在籍して会社を退職します。帰国後ただちに起業準備に取り掛かり、2015年3月にPROVIGATEを設立しました。

坂田:
この人は研究内容を正確に理解してくれている。これが関水さんと話したときの第一印象でした。私はビジネスについてはまったくの素人ながら、関水さんがビジネスのご経験が豊富であることはもちろん、研究や技術についても深い造詣を持っていることはすぐにわかりました。だから我々の研究を最適な方向に導き、ビジネス展開してくれると安心できたのです。
黒川:
我々は常に、サイエンスをマネタイズできる人材を探しています。その人材に求められるのは、ベースとなるサイエンスをビジネスに応用し、最終的にユーザーを笑顔にできる製品やサービスを届けられる能力です。
関水さんは発生生物学のPh.Dを東大理学部で取得し、経営コンサルタントとして医療機器や体外診断薬などのプロジェクトに関わってこられました。坂田先生の研究をマネタイズのフェーズに引き上げるには最高の人物だとお会いしてすぐに思いました。
さらに驚きだったのは「血糖値は、あくまでもワンオブゼムでしょ」と、半導体バイオセンサの大きな可能性を見抜かれたことです。この瞬間、半導体バイオセンサは、単なる血糖値の測定ツールから、健康状態をリアルタイムに感じることにより人々に健康の維持増進に向けた行動変容を引き起こすツールへとポジションを変えたのです。

CEOに就任した関水氏は、世界最高のバイオセンシング事業体を創ることをビジョンに掲げ、ただちにチーム作りにかかります。そこで活かされたのが、それまでのキャリアで培われてきた関水氏の経験に基づく知見や人脈です。ヘルスケア関連のビジネス、特に医療機器・体外診断薬の製造販売業は規制産業であり、厳密に定められたレギュレーションの中で、着実にモノづくりのステップを進めていかなければなりません。バイオセンシング事業の立ち上げにおける、資金調達も含めた綿密な事業計画の策定や社内外含めたチーム作りでは、偶然にも関水氏の経験が活きることとなりました。

関水:
我々は、まず試作機を作らなければなりません。そのためには設備が必要です。有機溶媒の使えるドラフトも必須ですし、生体サンプルも扱います。幸いなことに、東京大学の敷地内には篤志家の資金で設立・運営されているアントレプレナープラザというベンチャー育成の立派な施設があり、起業早々に入居することが出来ました。この施設の素晴らしい点は、一定の要件をクリアすれば、有機溶媒の利用なども含め様々な実験を学内と同じ条件でできる点にあります。こんな施設は民間ではなかなかありません。また学内の一部の共通機器などは、お手頃な金額でベンチャーが利用することが出来ます。これは資金に限りのある我々スタートアップにとって大きなアドバンテージとなりました。しかも運が良ければ、実験に必要な什器や設備類を、東大の先生方から中古で譲ってもらえることもあります。超優秀なインターンも採用しやすい。モノづくりベンチャーにとっては、この上なく恵まれた環境です。資金面に関しても、UTECさんから早い段階で最初の出資を得られたことは、大きな支えとなりました。

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

テクノロジーで世界中の人が
一生を笑顔で過ごせるように

黒川:
今PROVIGATEのチームは、30代のポスドクさんたちと50代のモノづくりのベテランさんたちで構成されていますよね。優れたサイエンステクノロジーでもって事業につなげグローバル課題を解決するという観点では理想的と思えるこのチーム構成は、関水さんの意図通りなのでしょうか。
関水:
大変有難いことに意図通りです。アカデミア出身メンバー、産業界出身メンバー共に、全員自分よりもはるかに優秀で、尖った能力を持つスーパー技術者集団です。無茶振りするとたいていそれを作り上げてきます(笑)。
バイオセンサは、コードが書ければよいというわけではなく、物理と化学と生物の融合したアナログ領域なので人材が少ないのが苦労するところです。試作・改良の部分では体力のある(笑)若い頭脳が必要であり、最短距離を進むためにはベテランのノウハウが欠かせません。コードの書けるデジタルエンジニアは世界中にたぶん百万人単位でいらっしゃいます。しかし、アナログエンジニアは本当に数が少ないのです。アナログデバイスの開発は試作してみないとわからない世界ですので、1人前になるのに15年はかかります。加えて、検体検査業界に絞ると過去20年間ほとんどイノベーションが起きていません。すなわち製品開発を頭から尻尾まで経験した人材は、ほとんど市場にいらっしゃらないということです。そのような状況の中で、数少ない成功事例を先導した経験のある天才的ベテラン人材が、バイオセンサや電気計測の大企業から2名も参画していただいたということは奇跡に近いと思っています。逆に言えばこの2名の天才エンジニアに参画していただけなければ……と思うと背筋がぞっとします(笑)。
坂田:
エンジニアの一人は、私の教室に出入りしていた方をスカウトしましたね。もう一人の技術者は、関連分野の論文や特許を関水さんが読み込んで、これはと思う人を口説き落としてこられた。その行動力には驚きました。
関水:
いえ、口説き落としたというのは語弊があります。私はとにかく時間をかけて繰り返しお会いし、PROVIGATEの理念を熱く語り、技術の悩みを相談しただけです(笑)。そこに共鳴していただいたのだと思います。チームメンバーは本当に個性豊かで超優秀な人が揃っていて、さながら動物園のようでマネジメントが大変です(笑)。私は経営者の仕事とは、社員の幸せを最大化することを通して、お客様に最大の価値をお届けすることだと考えているのですが、難しいのは「幸せは人それぞれである」という点です。金か名誉か社会貢献か研究開発の自由か家族か楽しさか厳しさか……本当に人それぞれです。それを注意深く観察し、会社として一人ひとりに公正・公平に提供できるモノをできる限り提供します。それで各自が持てる能力を楽しく最大限発揮し、能力を伸ばせていけるかどうかが勝負だと考えています。この人はどこを押したら、やる気のスイッチが入るのかなとこっそり見ている。人によりやる気スイッチは異なります。これを適切に見極めて、ベストなタイミングで連打するわけです(笑)。
黒川:
そういえば、いつもスイッチがどうのこうのって言ってますね(笑)。
坂田:
僕は押してもらった記憶がないようだけど。
関水:
気づかれないように押すのが技術です(笑)
坂田:
関水さんが加わってくれて、私は研究に向かう際のワクワク感がますます強くなってきました。面白いテーマを見つけて実現したいという欲求は以前と同じながら、それがビジネスにつながることで、人を幸せにできるという意識が強まりました。研究成果の社会への還元については、関水さんに一任できるので、研究に専念できるのもありがたい限りです。
関水:
技術系ベンチャーの起業環境は、過去数年だけでも格段に良くなってきています。資金調達面でもそうですし、エコシステムにおける人材の厚みも増してきています。ナレッジの共有もどんどん進んでいます。しかも有望なシーズは日本の大学にゴロゴロ落ちており、まだまだ世界レベルで十分に勝てるレベルにあります。皆さん金の卵に気が付いていないだけです。
大学の実学系の先生方には、ご研究の社会実装は助成金申請資料の物語ではなく、実現可能な目標であると考えていただきたいです。一方でベンチャーに飛び込んでみたいと考える人には、まずはベンチャー界隈のネットワークに気軽に遊びに来てもらいたいです。そこには優れたシーズ技術やネジの外れたベンチャー人たちとの出会いがあり、リスク許容度がどんどん大きくなって、ある日「こちら側」にジャンプインしていることに気が付くでしょう(笑)。その際にはUTECさんのようにきっちりサポートしてくれる組織も増えていますのでご安心ください(笑)。
黒川:
世界最高のバイオセンシング事業体を創るという、関水さんのビジョンに共感するベンチャーキャピタルとしては、そのビジョンの成功確率が最大となるよう資金面で支援し続けることが当面の課題です。PROVIGATEの製品で世界中の人々を笑顔にすることを成し遂げるとともに、第二、第三の関水・坂田ペアと出会えるよう努めていきます。