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09 STORY JDSC UTEC

データで日本をアップグレードする

株式会社JDSC
代表取締役CEO
Satoshi Erdös Kato
取締役COO
パートナー/マネージングディレクター
Noriaki Sakamoto

PROLOGUE

2020年、日本データサイエンス研究所から社名変更したJDSC。旧社名からわかるように、同社はデータ活用を利益につなげるプロ集団です。特長は企業個社内にとどまらず、サプライチェーン間、あるいは産業全体の企業間におけるデータの成形・結合・活用を通じて、「UPGRADE JAPAN」を目指していること。具体的には、複数のプレイヤーが一緒にデータ活用するための構想や座組づくり、AIやデータ活用のコンサルティング、システム実装まで、一気通貫で支援しています。創業者の加藤エルテス聡志氏が社団法人として運営していたものを株式会社化した背景には、旧友であるUTEC坂本教晃との再会があったとか。投資やハンズオン支援を通して旧友から“戦友”になった二人に、同社の軌跡をうかがいました。

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SECTION01 : データサイエンス領域の共通課題を解決

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SECTION01

データサイエンス領域の
共通課題を解決

JDSCという社名は、前身の日本データサイエンス研究所の英語名「Japan Data Science Consortium」の頭文字を取って名づけられました。この名前に同社がやりたいことが表現されているといいます。

坂本:
あらためて社名に込めた思いをお話いただけますか。
加藤:
JDSCの立ち上げ前、私は製薬会社にいました。製薬業界は案外、競合同士が協力し合っています。ロビイングはもちろん、例えば新型コロナウイルスの治癒という共通目的に対して、各社が持つ化合物ライブラリを共有して創薬に活かしたり、マーケティング領域でも「我が社の薬は内科系、御社は循環器科系だから一緒に」と共同でキャンペーンをやったりします。

ただ、バリューチェーンにおいてさまざまな協力関係がある中で、データサイエンス領域だけはそれがありませんでした。問題は、製薬会社側ではなくベンダー側です。私は製薬会社でDXを進めるにあたって、「どうせ同じようなシステムを構築するのだから、みんなで使えるものを売ってくれればいいのに」と感じていました。しかし、それをSIerに伝えると、「いや、御社は特殊ですから」とおだてられ丸め込まれてしまう。彼らの本音は、「私たちは要件定義して構築し、保守運用することで利益を得ているからできません」ということなのかなと思っていました。その結果、各社は“車輪の再発明”をさせられて、スピードが鈍りコストもかさんでいく。これを何とか解決したいというところが出発点でした。
坂本:
製薬業界のco-マーケティングなどの話は創業当初からしていましたね。その後、アプリケーションはいろいろと試行錯誤して、物流から電力、海運などさまざまな領域に広がっています。
加藤:
業界における共通の課題は、殆どのケースで同じアルゴリズムを使って解くことが可能です。そこで製薬業界に限らず、共通の課題を抱える産業に対して、企業同士が協力する座組をつくり、そこに私たちのデータサイエンスのケイパビリティを提供するビジネスモデルへと進化させていきました。社名の話に戻ると、コンソーシアムという名称には、さまざまな企業が協力することで共通の目的を達成するお手伝いをしたいという思いが込められています。

SECTION02 : ダイヤの原石を眠らせておくのはもったいない

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SECTION02

ダイヤの原石を
眠らせておくのはもったいない

2013年、加藤氏は製薬業界のデジタル領域共通課題を解決するために一般社団法人日本データサイエンス研究所を立ち上げます。現在の形に飛躍するきっかけは、マッキンゼー時代の同僚であるUTEC坂本との再会でした。

加藤:
社団法人時代は大学病院や医学系の学会がお客様で、先生が腎臓系の医療論文を書くためのソフトウェアを開発して提供していました。事業はうまくいっていたのですが、「もっとインパクトを与えることができるのに、もったいない」と言ってくれたのが、マッキンゼー時代の同僚だった坂本さんでした。
坂本:
私とエルテスさんは、地方で同じクライアントの別のプロジェクトを担当していたんですよね。コンサルティング会社には「辞めて起業する」と口で言ってそのままの人が多いのですが、エルテスさんは本気だったことが印象的でした。その後、私はUTECでキャピタリストに転身。エルテスさんのことを思い出して、2016年ごろに連絡を取りました。

当時、社団法人は順調で、ファイナンスにも課題はありませんでした。しかし、エルテスさんの能力ややりたい方向性はダイヤの原石。医療領域のデータ活用だけに特化するのはもったないと思いました。「エルテスさんのようなに能力が高い人は、社会に大きな貢献をする責任がある。そもそもコンサルに入ったのも、社会に大きなインバクトを与えたかったからでしょう?」と話したことを覚えています。
加藤:
しっかりエクイティを入れて、より大きなインパクトを出すべきという坂本さんのアドバイスには大いに励まされました。実際に株式会社化するまで1年ほどかけましたが、それは迷ったからではなく、具体的にどのようなビジネスにするのかを探っていたからです。その過程で、坂本さんには東大の先生方をご紹介いただきました。東大は学術実績がある研究がごろごろしています。ただ、学術的価値が高くても、社会実装できるとはかぎりません。何人もの先生にお会いして、坂本さんともディスカッションスパーリングを重ねながら、事業を具体化させていきました。

その中には、サプライチェーン領域のAI需要予測のように今もソリューションとして提供しているものもあれば、会計分野の自動化のように企画だけで消えてしまったものもあります。ちなみに今、私たちは物流や電力、海事領域でも事業を展開していますが、当時坂本さんにご紹介いただき、現在社外取締役を務める田中謙司先生の知見なしにそれらの事業展開はなかった。坂本さんには本当に感謝しています。

NEXT

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PROBLEM

2018年、JDSCはUTECの出資を受けて社団法人から株式会社に改組します。もともとコンサル出身でビジネスの知見は豊富だった加藤氏ですが、株式会社化の後は
プレッシャーの連続で心が折れそうになったこともあったそうです。

SECTION03 : ハイプレッシャーの中で心の支えになった

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SECTION03

ハイプレッシャーの中で
心の支えになった

UTECは創業支援にとどまらず、創業後もハード、ソフトの両面でバリューアップをしたと言います。はたして、その中身とは?

坂本:
UTECのバリューアップで印象に残っているものはありますか。
加藤:
具体的に事業をどのように成功させるのかについて、坂本さんが日々壁打ち相手になってくれたことが大きかったですね。お客様をどのようにつくるかから始まって、組織をどうするか、値決めをどうするか、今後の資本政策をどうするかといったことまで、ありとあらゆることを議論しました。

メンタルの面でも大いに支えていただきました。コンサル時代は、どんなハードシングに直面しても冷静かつ合理的な判断が可能でした。しかし、起業して自分でハンドルを握り、かつその車に従業員や株主も乗っているとなると、コンサル時代とは比べものにならないほどのハイプレッシャーがあります。その中で正しい判断をし続けることは本当に難しい。たとえば小さな会社からエンタープライズになっていくときには、やはりついてこられなくなる人も出てきます。これまで積み上げてきた関係がある中で、ついてこられない人を切り捨てていいのか。これはロジカルに答えが出る問題ではなく、当然、迷いや後悔が生じます。坂本さんは、そうしたタフな場面でずいぶんと励ましてもらいました。坂本さんは心から信頼できる戦友です。
坂本:
細かいところまで毎週のように議論していたのは株式会社化から1年弱でした。最初のオフィスは雑居ビルの小さな一室で、会議室がなく、センシティブな話をするときは近所の喫茶店に行かざるを得ませんでした。しかし事業が拡大して、1年も経たないうちに東大生が集まりやすい東大の近くのオフィスに転居。サッカーができるくらいの大きなオフィスで、私は「さすがにコストがかかりすぎる」と反対したことを覚えています。しかし、それも結果的に良い判断になり、さらに人が増えて埋まっていきました。その段階までくると、もはや私がとやかく言うレベルではありません。あとは上場準備に向けて話を詰めていく程度でした。

FINAL SECTION : 日本の産業をアップグレードしたい

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

日本の産業をアップグレードしたい

JDSCは2021年12月上場を果たします。今後の展望について熱く語ってもらいました。

加藤:
JDSCは、産業内のどのような共通課題を解くかという着想から、その課題を解決するためのアルゴリズムの開発や実装まで包括的にお客様を支援しています。また、22年11月には、海事領域の課題をAIで解決するジョイントベンチャー「seawise株式会社」を三井物産さんなどと設立しました。この取り組みのように、コンサルやSIerの機能だけでなく、私たちがリスクテイカーとして資本を入れ、事業の主人公として産業の課題を解決していくケースも今後増えていくでしょう。

ただ、JDSCはアップグレード“海”の会社でもなければ、アップグレード“エネルギー”の会社でもありません。掲げているのは、アップグレード“ジャパン”です。私たちのビジネスを通じて、個別の企業の部分最適を超えて、さまざまな企業が手を取り合ってより大きな目標を実現していく産業を、日本にたくさんつくっていきたい。それが私たちの使命です。
坂本:
産業をつくって日本を盛り上げたいという理念は、UTECの考え方とも近くて共感します。エルテスさんなら必ずや実現してくれると信じていますが、もはや私はそれについて冷静な評価ができないですね。大好きな会社なので、もう第三者の客観的な目で見られない(笑)
加藤:
そう言ってもらえるのはとても嬉しいです。坂本さんとの巡り会いは幸運でしたね。プロダクトや戦略は、後からピボットが可能です。しかし、資本政策は元に戻すことが困難であり、起業家は慎重に考える必要があります。とはいえ、お金には色がありません。見るべきなのは、それを持つ人の意思、能力、人間性です。いいVCかどうかを判断するのは難しいですが、キャピタリストが信頼できるかどうかはわかるはず。私は坂本さんという信頼できるパートナーを得ました。資本政策を検討している起業家のみなさんは、ぜひそこにこだわっていただきたいですね。