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10 STORY Green Earth
Institute
UTEC

バイオの力で循環型社会をつくる

Green Earth Institute 株式会社
代表取締役CEO
Tomohito Ihara
UTEC代表取締役社長CEO・
マネージングパートナー
Tomotaka Goji

PROLOGUE

全世界的な課題であるカーボンニュートラルに貢献する技術として注目されているのがバイオリファイナリーです。バイオリファイナリーは、微生物の力を活用して、再生可能資源であるバイオマスから化学品を生み出す技術。これでバイオ燃料を生産すれば石油エネルギーへの依存を下げられます。Green Earth Institute株式会社(以下GEI)は、バイオマスの中でも非可食のもの――コーヒーかす、トウモロコシの茎や葉など――を原料に化合物を生産する技術に強みがあり、食糧問題と競合しない形で地球が抱える問題に貢献することを目指しています。GEI代表取締役CEO 伊原智人氏と、同社設立前からこの技術に着目していたUTEC代表取締役社長CEO・マネージングパートナー 郷治友孝に、バイオリファイナリーの可能性について語り合ってもらいました。

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SECTION01 : 廃棄物になるバイオマスを地球のために

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SECTION01

廃棄物になるバイオマスを
地球のために

GEIは、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)から生まれたスタートアップです。バイオリファイナリーは注目の技術ゆえに世界で研究開発が盛んに行われていますが、GEIが持つ技術にはどのような強みがあるのでしょうか。

郷治:
あらためて事業について説明していただけますか。
伊原:
GEIのミッションは、「グリーンテクノロジーを育み、地球と共に歩む」。そして私たちが持つグリーンテクノロジーが、バイオマスを糖に変え、それを微生物が取り込み、体内で変換することで化学品をつくるバイオリファイナリー技術です。バイオリファイナリーそのものは特殊な技術ではありません。たとえばお米というバイオマスを微生物で発酵させて日本酒をつくるのも、その一つです。ただ、ある化学品をつくるときに、それだけを都合よくつくる微生物が必ずしもいるとは限りません。そこで遺伝子を組み替えたりして目的の化学品を効率よくつくる技術を、今、世界のバイオ企業が研究しています。

その中で私たちの特長は、非可食バイオマスを原料にする技術を持っていることでしょう。現在、バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビからつくられています。それ自体はバイオマスであり、カーボンニュートラルですが、食べられるものを原料とするため、一方で食糧問題を引き起こすおそれがあります。それに対して、GEIは、トウモロコシの茎や葉、サトウキビの絞りかす、コーヒーかすなどといった廃棄物を原料にする開発を行っています。つまりCO₂排出量を下げるだけでなく、循環型社会の実現にも貢献できるのです。
郷治:
GEIが用いているRITEが開発したコリネ菌とそれを使ったRITEバイオプロセスという製法は、非可食バイオマスに含まれる二種類の炭素をともに発酵できるだけでなく、嫌気反応といって、自身を増殖させることに酸素エネルギーを使わずに、目的の化学品をひたすらつくる反応を用いています。最初にRITEから技術の話を聞いたときに革新性を大いに感じて、「一緒に会社をつくりましょう」という話になりました。設立から12年。現状はいかがでしょうか。
伊原:
世界を見渡すと、遺伝子組み換えをやっているバイオリファイナリーのスタートアップは他にもあります。ただ、いい微生物をつくるだけでは商用化ができません。どのような条件で行うときちんと化学品がつくれるのかというプロセスの最適化と、研究室ではなく数100kLというタンク単位できちんとつくれるのかというスケールアップができてはじめて社会に貢献できます。GEIは商用化の技術に優位性があり、すでにアミノ酸を商用化したり、古着からつくったバイオイソブタノールをジェット燃料にしたりしてJALの飛行機を飛ばした実績もあります。商用化の実績では先頭にいるといっていいでしょう。

SECTION02 : これ以上の適任者はいなかった

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SECTION02

これ以上の適任者はいなかった

2011年GEI設立にあたり、UTECは500万円の出資をします。会社設立時点では、実質的な経営者が不在。適任者を探していた郷治は、早くから伊原氏に目をつけていたといいます。

郷治:
伊原さんは通商産業省(現経済産業省)時代の憧れの先輩でした。1999年にいわゆる官民交流法が制定されて、その第一弾としてリクルートに出向。一度戻ってきた後に2005年に退官して民間に移られた。当時は政府から民間に転出する方はほとんどいなかったため、センセーショナルだったことを覚えています。
伊原:
官民交流法ができる前に留学をして知的財産の研究をしていました。帰国して知的財産に関する仕事をしてみたいと考えていたときに、官民交流法ができて、リクルートで大学発テクノロジーライセンスをビジネスにしている部署に2年間出向しました。一度戻り2年間奉公した後に、やはりビジネスをやりたいということでリクルートに転職しました。

ふたたび転機が訪れたのは2011年です。通産省時代におつきあいがあった玄葉光一郎国家戦略担当大臣(当時)から「エネルギー政策を一緒に見なおしませんか」と声をかけていただいて国家戦略室の企画調整官に。郷治さんから「GEIを設立した。説明したい」と連絡をもらったのはそのときでしたね。
郷治:
バイオリファイナリーは国のエネルギー政策とも関係が深い事業です。伊原さんはグリーン産業などのエネルギー環境政策を担当していたので、ぜひご説明したかったのです。ただ、GEIは設立されたばかりで経営者が不在でした。秘かに「いつかGEIの経営者になってくれないかな」と下心を持ちながら事業を説明していたことは認めます(笑)。GEIは公益財団発スタートアップで、大学発スタートアップ以上に知的財産の整理がたいへんです。伊原さんはその専門家で、グリーン政策にも詳しい。これ以上の適任はいないなと。
伊原:
2012年に政権交代があって内閣官房を辞した後、すぐにまた連絡をいただきましたね。私は国家戦略室で「これからのグリーン産業は国内外で勝てる企業が必要」と偉そうなことを言っていましたが、口で言うだけでなく、それを実現する立場になって挑戦してみようと考え、参画させてもらうことにしました。

NEXT

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PROBLEM

伊原氏の参画時、GEIのメンバーはRITEから来ていた研究者と事務員の計7人。
経営者どころか事業を担う人材も不在でした。
研究開発型スタートアップとはいえ、人員の拡充が急務でした。

SECTION03 : 採用面のサポートがなければIPOは困難だった

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SECTION03

採用面のサポートがなければ
IPOは困難だった

まだ会社としての事業が形をなしていない状態でGEIに参画した伊原氏。UTECからどのようなバリューアップを受けて会社を軌道に乗せたのでしょうか。

郷治:
UTECのバリューアップで印象に残っていることがあったら教えていただけますか。
伊原:
2012年にジョインした後、まずは研究を強化するために研究員を増やしました。リクルート時代にビジネスの実務を経験していたのでひとまず事業側は私がやりました。ただ、経営についてはほぼ素人です。何かわからないことがあればすぐ郷治さんに会いにいってアドバイスをもらっていました。正確に言うと、こちらから相談する前に郷治さんから「ここは違います」と指摘されてばかりいたのですが(笑)
郷治:
当時はオフィスがビルの隣同士で。ですからコミュニケーションも密で、役所では大先輩ながら、遠慮なく顔を出させて頂いたり物を申させていただいたりしていました。
伊原:
採用面でのアドバイスも助かりました。IPOに向けてCFOの採用を検討し、スケジュールが迫っていたことから一時はある方に決まりかけていたのですが、郷治さんは「焦って適任ではない人を採らないほうがいい」という。数々のIPOを経験してきた郷治さんが言うのだから、おそらく本当にそうだろうと思って採用を見送りました。結果、現CFOの浦田隆治とめぐり会いました。また、UTECに応募してきた伊東薫を「コンサルとしてIPO経験があるから」と紹介してくれたのも郷治さんです。伊東は現在執行役員CBOで、IPOの立役者。採用面のサポートがなければ、IPOは難航したでしょうね。

もちろんファイナンス面も非常に助かりました。上場前までに合計約30億円を調達して、そのうち5億円弱がUTECからの出資でした。その額以上に大きかったのが、投資家や事業会社のみなさんをまとめてくれたこと。日本の投資家の方はリスクにシビアで、リードインベスターが積極的に出資してはじめて安心してお金を出してくださるケースが多い。UTECがリードインベスターの役割を果たしてくれたので、他の投資家のみなさんも動けたのだと思います。

FINAL SECTION : 専業の強みを活かして
業界のリーディングカンパニーへ

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

専業の強みを活かして
業界のリーディングカンパニーへ

2021年12月に上場を果たしたGEI。今後どのように成長を続けていくのか。展望を語ってもらいました。

郷治:
IPOは低くないハードルでしたね。
伊原:
当初は監査法人や証券会社からもそういわれていました。郷治さんにも一緒に監査法人や証券会社との議論に加わってもらいましたね。
郷治:
私からは数字の裏付けだけでなく、「日本のため、この会社がパブリックカンパニーにならなくてはいけない」と熱く語らせていただきましたが、もちろん、その後上場に至ることができたのは、売上が右肩上がりになるなど、GEIが実績を出されたからです。IPO後の今後の展望についても教えていただけますか。
伊原:
GEIはRITEからライセンスを得てコリネ菌でバイオリファイナリー事業を展開してきましたが、今後は大腸菌や酵母、さらにはまったく新しい菌の活用も視野に入れています。私たちが目指すのは、バイオリファイナリー分野のリーディングカンパニー。たとえば半導体業界でも中心にいるのは専業メーカーであることからもわかるように、バイオリファイナリー分野を引っ張るのもおそらく専業企業のはず。GEIは専業の強みを活かして、さらに新しいビジネスモデルも開発しながら事業を伸ばしていきたい。それが地球の抱える問題の解決につながると信じています。
郷治:
最後に日本のVCに期待することについても一言お願いします。
伊原:
アメリカでは、まだ誰も投資していないスタートアップがあったら、「誰も目をつけていないうちに自分が」と関心を示す投資家が少なくありません。お金を投資していただいている立場で言うべきではないかもしれませんが、日本のVCはそれと比べると慎重な姿勢が目立ちます。その中でリスクを取って最初に動いてくれたのがUTECでした。それだけではありません。実は私たちの売上がなかなか立たなかったため、途中でファンドの中での価値評価を下げざるを得なかったこともあったそうです。それでも粘り強く株式上場まで支え続けてくれたことには感謝しかありません。UTECのようなVCが増えると、日本のスタートアップ企業を取り巻くエコシステムはさらに良くなっていくのではないでしょうか。