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12 STORY ELEMENTS UTEC

自分の情報を自分で
利活用できる世界に

株式会社ELEMENTS 代表取締役 Yasuhiro Kuda 取締役COO パートナー/マネージングディレクター Noriaki Sakamoto

PROLOGUE

人間のデータを解析するシステム「AIクラウド基盤」を通じて個人認証と個人最適化ソリューションを提供するELEMENTS。AIテクノロジーをベースに、顔や指紋などの生体情報を認証して本人確認の負担を軽減したり、体型を解析して洋服選びやフィットネスに活用したり、あるいは人の動きを解析してオフィスの室温を調節したりするなど、さまざまな利用シーンにつながるソリューションを提供しています。実はELEMENTSへの投資は、坂本がUTECにジョインして最初に手掛けた案件でした。当初、久田氏はUTECから投資してもらいたいという気配がなかったと言います。そこから関係を深め2022年の上場に至るまでどのように歩んできたのか。二人に振り返ってもらいました。

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SECTION01 : 人間の情報には正解がない

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SECTION01

人間の情報には正解がない

ELEMENTSは生体情報をはじめとした人間のさまざまな情報を解析するソリューションを企業に提供しています。AIベンチャーが続々と誕生している中で、ELEMENTSの技術はどのような優位性を持つのでしょうか。

坂本:
いまやELEMENTSの個人認証ソリューションは生活のさまざまなシーンに入りこんでいます。先日、私が銀行口座を開設したときも、本人確認にELEMENTSのサービスが使われていました。最近ではフリマアプリ等でも利用が広がっていますね。ELEMENTSの技術はどこに特長があるのか。あらためて教えてもらえますか。
久田:
コア技術は機械学習です。たとえば画像認識でネジの不良品を見つけ出したいなら、正解のネジのデータと照合すればいい。それに対して人間の顔には正解がありません。私の顔を認識したければ、大量のデータの中から確率的に似た顔を機械学習で見つけ出すことになります。私たちはAIが大量のデータを機械学習する際に、データを階層化して機械学習のスピードを上げる技術を持っています。人間の顔や体型、行動など、正解のない領域でその技術を使って解析を行い、さまざまなソリューションを提供しています。
坂本:
創業は2013年でした。その後、AIベンチャーが続々と登場していますが、強みは変わりませんか。
久田:
創業からしばらくは、今お話した学習方法が差別化になっていました。現在は加えて、保有するデータ量が強みになっています。正解が決まっていない領域は、データ量が認識の精度を左右します。私たちは創業10年の歴史があり、お預かりしている人間のデータ量はおそらく世界一です。単に創業が早かったことだけが理由ではありません。一般的なAIベンチャーはアルゴリズムだけを事業者に提供し、ユーザーのデータは事業者に帰属します。一方、私たちは事業者からデータをお預かりすることにこだわってきました。A社が自社のユーザーデータだけを解析する場合と比べ、A社、B社、C社……と事業者横断型でお預かりしたデータを解析するので、より精度の高い解析プラットフォームを事業者に提供できるのです。

SECTION02 : 「UTECは他のVCと思想が違った」

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SECTION02

「UTECは他のVCと思想が違った」

久田氏は証券会社で勤務後、2013年にLiquid(現ELEMENTS)を創業します。研究開発を続ける中で出会ったのがUTECの坂本でした。

久田:
起業のきっかけはアニメ「攻殻機動隊」でした。作品の舞台は、人間の体が義体で、記憶も外部デバイス化された近未来です。すべてがデジタル化された世界で、個たりうるものは何か。それが私の中で大きなテーマになりました。個たりうるものは何かというテーマを探索するには、まず個人を識別して証明する必要があります。そこで機械学習で生体認証する会社を立ち上げました。
坂本:
最初にELEMENTSを知ったのは、久田さんが総務省の「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム」に応募した2014年でした。UTECはこのプログラムの事業化支援機関の一つ。私はUTECにジョインしたばかりで時間に余裕があり、書類をじっくり読んでいたら、「1対N」の生体認証に取り組むベンチャーが目に留まりました(注)。私は「1対N」が本当の認証だと考えていたので、興味をそそられてすぐ連絡を取った。それがELEMENTSだったんですよね。
   
注…認証方式には、入力した生体情報とカードなどのIDを照合して認証する「1対1」と、入力した生体情報を、データベースに登録されたN個の生体情報と順次比較して一意に特定する「1対N」がある。
久田:
電話をいただき、その日のうちに会いに来てくれたんですよね。実は多くのVCから声を掛けてもらっていたのですが、技術の話を一番おもしろがってくれたのが坂本さんでした。たしか「攻殻機動隊」の話でも盛り上がった(笑)
坂本:
ぜひ出資させてほしいとアプローチしたのですが、最初は受け入れてくれる気配がなかったですよね。
久田:
外部資本には慎重でした。考え方が異なるVCから出資を受けると、あとでたいへんなことになりかねませんから。最終的に出資いただくことにしたのは、坂本さんのお人柄に加えて、IPOまでの時間軸が合ったことが大きいですね。私たちはすぐに上場するつもりはありませんでした。UTECのポートフォリオを見ると辛抱強く持たれているケースもあり、明らかに他のVCと違う思想でやっているように感じました。これなら同じ方向を向いていけそうだと、出資していただくことにしました。

NEXT

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PROBLEM

シリアルアントレプレナーの久田氏は、スタートアップ・エンジニアコミュニティ界隈に広いネットワークを持っています。ただ、事業を継続・成長させるには、それ以外の領域の知見や人材も必要です。足りないところをどうやって補うのかが課題でした。

SECTION03 : 海外展開のボトルネックは「人材」だった

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SECTION03

海外展開のボトルネック
は「人材」だった

2015年にELEMENTSはUTECから出資を受けました。そこからオンライン本人確認でトップを走るようになるまで、どのようなバリューアップがあったのでしょうか。

坂本:
UTECのバリューアップでは、どのようなものが印象に残っていますか。
久田:
初めに思いつくのは助成金申請のサポートでしょうか。AIは、まず情報を収集して学習させるプロセスに時間がかかります。その間は売上が立たないため、助成金などの仕組みを活用して事業を支える必要があります。しかし、私は助成金について門外漢。行政の助成金プログラムはすべて公開されていますが、その中から私たちの事業に合致するものを探し出すのは至難の業でした。

そこでサポートしてくれたのが坂本さんです。坂本さんは経産省出身で、助成金に関する知見が豊富。ELEMENTS向きのプログラムを紹介してくれただけでなく、申請書の書き方までサポートしてくれました。おかげでこれまで応募したものは非常に高い確率で採択されていると思います。

また、生体認証はセンシティブな領域であり、社会実装は法改正とセットで進める必要があります。行政をどうやって巻き込むかという点でもアドバイスをしてくれたし、人も紹介いただいた。とても助かりました。

また、人とつなぐという意味では、人材のご紹介というところでも大きな貢献をいただきました。現在のLiquid(ELEMENTSの個人認証領域を担う事業会社)の長谷川敬起CEOは、もともと上場企業の経営陣を務めていたのですが、UTECからご紹介いただきました。長谷川さんを紹介いただいたのは、当初からグローバルでの普及を目指していたからでした。生体認証は海外でも行政との折衝が必要で、やるなら私とCTO自身が現地に移住して活動したほうがいいと考えていました。しかし当時、社内にはLiquidを安心して任せられる経営人材がいなかった。そのタイミングで長谷川さんを紹介いただき、私たちはインドネシアで事業を展開できたのです。長谷川さん以外にも、大手コンサルの出身の方等、幅広く紹介していただきました。私はその界隈の方々とネットワークがありませんでしたので、UTECにはそういったところをうまく補っていただけたと思います。

FINAL SECTION : 自分の情報を自由にコントロールできる世界へ

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FINAL SECTION

FINAL SECTION

自分の情報を自由に
コントロールできる世界へ

2022年12月、ELEMENTSは上場を果たしました。「個たりうるものは何か」という深遠なテーマから始まった事業は、今後どこに向かうのか。今後の展望をうかがいました。

坂本:
移住後、海外の展開はどうなっていますか。
久田:
インドネシア、フィリピン、マレーシアで認証事業をスタートさせた後、帰国しました。なりすましを防ぐ本人確認は、やましいことがある人にとっては邪魔なテクノロジーです。しかし、今後もアジアを最重点の市場にする方針は変えません。私たちは人間のデータを扱う事業なので、人間の数が増えて新しい価値観が生まれていくような国にこそ可能性を感じます。国内をしっかり伸ばしつつ、さらに東南アジアを中心にグローバルで市場性を探っていこうと考えています。
坂本:
認証以外でのソリューションも本格化しています。将来のビジョンを教えていただけますか。
久田:
個たりうるものが何かを追求するには、まず現在のように一握りの大手プラットフォーマーが情報を独占する世界から、個人が自分の情報を使って自由に行き来できる世界へ移行する必要があると考えています。そうした世界が確立すれば、個人は自分のユニークな情報を使って日常生活をより豊かなものにできるでしょう。たとえば体型の情報を使って自分にぴったりな服を買ったり、「ここは気になるから少し鍛えよう」とヘルスケアの参考にしたりすることもできるでしょう。
坂本:
久田さんは10年20年先を見て動いているから、まわりは理解できずに呆気にとられることがあります(笑)。たとえばご自身のキャリアもそうですよね。もともと数学が好きなのに、大学は法学部で、就職は証券会社。一見すると一貫性がなく見えますが、今やっている事業を振り返ると、非常に長い目線の中で、テック、法改正、マネーといったピースをきちんと集めてここまで歩んでこられました。今うかがったテーマも非常に長い時間軸であり、私のような普通の人の考えが及ばないところがあります。しかし、久田さんの中ではしっかり設計図ができているはず。将来、ELEMENTSが目指す世界観をどうやって実現するのか、とても楽しみにしています。