代表挨拶
〜UTEC創立5周年にあたって〜
おかげさまで、東京大学エッジキャピタル(UTEC)は、2009年4月をもちまして、設立から5周年を迎えさせて頂くことができました。
我々がこの5年間取り組んで参ったベンチャーキャピタル投資とは、社会を変革するようなイノベーションを起す新しい企業に投資をしていくことです。研究者や起業家と一緒になりながら、早い段階からお金を提供することで、技術やアイデアの種から、企業を共同で創業していくこと、といってもよいでしょう。イノベーションの種である科学技術や新しいアイデアを豊富に持っているこの日本で、国内外に新しい需要を創造することができるベンチャーキャピタル投資を根付かせることができれば、社会に貢献できるだけでなく、投資リターンも必ず上げられるはずである、と我々はずっと考えて参りました。
現在、日本には80万人弱の研究者がいると言われておりますが、大学には、その3分の1程度の26万人が在籍しています。その半数以上は国公立大学に属し、その中核に東京大学がございます。東京大学はもともと明治時代に、世界で初めて工学部を設置した総合大学であり、産業に貢献する研究者や人材の養成を、創立初期から世界でも最も重視してきた総合大学の一つです。そのような経緯から、戦前には、今日にも続く数々の企業が、東京大学との産学連携の中から生まれて参りました。戦後は、しばらく産学協同が低調になった時代もありましたが、2004年4月の国立大学法人法の施行に伴い、政府の内部組織としての役割を終えて法人化されることになり、産業界との連携にも新たな一歩を踏み出すことができるようになったわけです。
UTECの設立
UTECの設立は、その東京大学の法人化と時を同じくする2004年4月ですが、その準備は既に、2001年4月に就任された佐々木毅総長の時代から、東大内で脈々と始まっていました。佐々木先生の産学連携に関するお考えは、大きく二つあったものとお聞きしています。一つは、産学連携を、教育・研究と並ぶ大学の三つ目の役割として、外部から目に見える形で行うこと。もう一つは、産学連携について、学内の一部の活動ではなく、あくまでも全学的な体制とルール作りをすることでした。こうしたお考えのもと、その具体化は、当時東大広報委員長であられた石川正俊先生に託されました。そして、研究者が開発した知的財産を事業化するための仕組みとして、既存の大企業へのライセンスに加え、起業を通じてその知的財産を活用する、という東京大学知的財産ポリシーが、2004年2月に制定されました。当社は、その実現を図るために、「技術移転関連事業者」と呼ばれる東京大学が連携する唯一のベンチャーキャピタルとして設立されることになったわけです。
このように、東京大学で当社の設立をめぐる一連の検討がなされていた頃、私は経済産業省におりました。私は1990年代後半、今ではベンチャーキャピタルファンドやプライベートエクイティファンドの根拠法になっている「投資事業有限責任組合法」という法律を起草し、ファンド業界の方々と接点を持っていましたが、そのときは、このように思っていました。日本には、非常にユニークな技術の種が豊富にあるにもかかわらず、技術力に立脚して活躍するベンチャー企業を生み出し続けるベンチャーキャピタル活動がなかなか行われていない。たまに高い投資リターンをあげても、持続的に成功できているベンチャーキャピタルがなかなかない、と。私なりに、その理由は大きく2つあると思っていました。(1)一つは持続的に、よい技術に基づいたディール(案件)が入ってくるかどうかという問題、(2)そしてもう一つは、ベンチャーキャピタリスト即ち投資メンバーが、中長期のファンドの成功のためにしっかりとコミットできる体制があるかどうかという問題です。(1)ディールフローとは、投資検討の対象となる案件の数と質の問題です。良質な案件が相当数、継続的に入ってくる仕組や評判があるかどうかが、ベンチャーキャピタルの成功を最初に左右する要因だと思います。(2)他方、ベンチャーキャピタリストがファンドの運営にコミットできるかという問題には、さらに二つあり、(1)組織の課題と(2)個人の課題があります。組織としてのファンド運営体制に自律性、自主性があれば、ファンドの成功、すなわち、最善の投資意思決定や投資先への支援にベンチャーキャピタリストが全力を注げますが、それが確保されているかどうかということ。もう一つは個人の課題であり、全身全霊を駆けて、責任をもって起業を支援しようという志のあるベンチャーキャピタリストが、それに打ち込むインセンティブを持って、中長期的に活躍できるようでなければ難しい、ということです。たとえば担当者が2〜3年のローテーションで変わっていくことを想定した人事体制であれば、10年間の期間のベンチャーキャピタルファンドで、技術シードから利益を出す会社を育成して実績を出せといっても、なかなか腰をすえて仕事をすることは難しいと思います。
よく、我が国では、経験がある起業家や経験があるベンチャーキャピタルが少ないから、ベンチャー企業もうまくいかないし、ベンチャーキャピタルも駄目だという話がされます。しかし、経験がないから駄目とか数が少ないから駄目という議論をしていては、いつまでたっても、前向きな変化は始まりません。要は、ディールフローの仕組みと、しかるべきベンチャーキャピタリストがコミットできる体制を整えて、明確なビジョンを持って実際にスタートする体制を作れるかどうかだ、と私は当時から思っていました。ファンドの法律は、1998年に国会を通り施行され、数多くのファンドがその法律に基づいて設立されるようになったものの、実際に日本から世界を変えるような新しい企業がそうしたファンドの資金を得てたくさん生み出されるようになったかというと、決してそうとは思えませんでした。
そのような中、東京大学でベンチャーキャピタルを設立する構想があるというお話を伺ったのは、私がスタンフォード大学ビジネススクールへの留学から帰ってきて間もない、2003年の11月半ばのことでした。その際に、当時産学連携推進室長であった石川先生にもお会いしたところ、成功するベンチャーキャピタルをいかに創るかという課題についても、東京大学として非常によく理解されていることが分かりました。むしろ、そうした点をよく理解しているからこそ、新しいベンチャーキャピタルをつくるのだ、と。それを知り、これは、日本で本格的なベンチャーキャピタルを確立し定着させるまたとないチャンスである、自分はこれを絶対に成功させるために力になりたいと思い、同年12月初め、役所に退職を申し出まして、当社の設立準備に加わることにしました。こうして私は、2004年4月に退官し、UTECの創業メンバーに加わることになったわけであります。
このようにして2004年4月にUTECは設立されたわけですが、当初から我々に資金があったわけではありません。今日運用させて頂いているUTEC1号ファンドの83億円はすべて、投資家の皆様から預けて頂いた、大変貴重な資金であります。当社は、設立から数ヶ月の間は、収入はおろか運用資金もないままでした。2004年いっぱいをかけ、個別に140社程度の機関投資家様や会社様を訪問いたしまして、最終的に22社様から82億円程度の出資のお約束を頂くことができ、ユーテック1号ファンドを設立することができたわけです。当時、こうした出資者様の暖かいご理解とご支援がなければ、UTECは到底、立ち上がることもできず、存続することもできず、今日のようなメンバーの充実や投資活動の発展を見ることはできなかったでしょう。改めまして、厚く出資者の皆様に御礼申し上げます。
投資活動
以来UTECは、これまでの5年間の間に、34社に投資を行って参りました。投資メンバーは現在6名おりますが、7月にはもう一名増えて、近々には管理部門も合わせて常勤役職員10名、非常勤役員4名の体制になる見込みです。
投資分野は、IT、バイオ、環境、素材系など、大学の研究開発に関する多岐の分野に渡ります。我々がリード投資と呼んでいる、新しい事業の立ち上げの段階から必要資金を入れさせて頂くという投資活動だけではなく、会社の設立前に研究者や起業家の方とビジネスプランを一緒に考えたり、その他もろもろの付加価値の向上やリスクの低減のためのお手伝いしたり、といった活動をさせて頂いております。このようなリード投資先は、現在のところ15社にのぼります。
これまでの投資成果ですが、利益や損失が顕在化したものは、4社のIPO、1社のM&A、4社の株式譲渡となっています。そのうち利益をもたらして頂いた投資先様は2社で、1社のIPOと1社のM&Aになります。これらの利益と損失の合計は、今のところ、おかげさまで、プラスになっています。
特にリード投資先の場合には、成功した場合の利益を大きく期待できる場合が多いです。こうしたリード投資先の会社様には、我々も、取締役等の立場になって経営陣の方々と密な関係を持ちながら、日々、諸々のご相談に乗らせて頂いたりしています。我々にとってのお客様とは誰かを考えた場合、出資者様が入るのはもちろんのことなのですが、投資先様が成功した場合には、投資収益として、我々の出資者、東京大学、我々自身といった関係者にも利益が還元されることになるわけですから、もっとも有難いお客様は成功される投資先様である、と申し上げて過言ではない、と思っています。
特に、3月26日にJASDAQ NEO市場に上場されたテラ株式会社は、我が国で上場したバイオ企業としては初めて、黒字の拡大基調をもって上場した会社になります。テラ社は、矢崎雄一郎社長をはじめとする経営陣の方々とともに、我々も同社のビジネスの立ち上げ段階から応援させて頂いてきた会社であり、大学の技術シーズからの投資によってきちんと投資成果まで上げることができた実際の例として、大変誇らしく感じています。ファンド設立から4年9ヶ月を経て同社が上場を果たしたお陰で、UTEC1号ファンドの運用成績も、大きな上昇局面へと入りました。
我々といたしましては、現在のように需要不足による不況が生じておりましても、需要喚起につながるようなプロダクトイノベーションや、販路の開拓を後押しするような需要創出型のイノベーションを生み出していくことができれば、こうした不況を克服することができるようになると考えています。そのようなイノベーションを起しつつある成功事例が、テラ社に引き続いて更に生まれてくることが期待されているところです。
今後の展望
我々といたしましては、今後とも一層、UTECの創立理念を実現し、発展させて参るために、大きく3つの方向性を考えております。
(1)早い段階からのリード投資に、より専念していくこと。今後とも、東京大学や東京大学TLO様との連携をより一層密に図っていくことにより、会社が設立される前の段階も含めて、市場を創り出す可能性のある有望な技術シーズを発掘し、それを事業化するための投資を行っていく、という戦略を、より一層実践して参りたいと思います。こうした戦略は、起業を通じた知的財産の事業化という我々の使命に沿うことはもちろん、高い投資リターンを上げていくためにも合理的な戦略であり、ベンチャーキャピタル投資の基本であると考えています。
(2)ベンチャー企業の成功のために、関連する複数の技術を投資先に積極的に導入していくこと。市場の観点から、ベンチャー企業の成功確率・競争優位性を高めるために、関連する複数の技術を導入し、それらを組み合わせていくことによって骨太にしていくという戦略です。そのため、東京大学TLO様とも連携しながら、東京大学の異なる研究室間の技術的俯瞰を深めるとともに、東京大学の研究とシナジーのある他の研究機関の技術シーズにも目を配って参ります。また、東京大学では近年、「国際産学連携」を積極的に推進していますが、我々としましても、海外の研究成果をベンチャー投資に活用していくことも重要と考えており、このたび、米国ARCH Venture Partners様と提携することといたしました。ARCH Venture Partnersは、シカゴ大学発祥のベンチャーキャピタルであり、現在は全米の研究機関をカバーしています。
(3)投資メンバーが全力でベンチャーキャピタル活動に取り組めるような体制をつくること。すなわち、UTECの使命に対して組織としても個人としても長期的にコミットし得るような体制を作ること。そして、それにふさわしい人材の採用・登用と育成を行なって参ります。
このような方針のもとで、今後とも、新たなイノベーションを起す企業を、研究者、経営者の方々とともに創り出して行く取組を継続・発展させて頂くために、UTEC2号ファンドを設立しようと考えており、現在、そのための活動を行っているところです。
今後とも、何卒UTECをご支援頂きますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。
株式会社東京大学エッジキャピタル
代表取締役社長 郷治 友孝